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***  日が昇る。小鳥の囀りと共に椛は目を覚ました。昨晩アウリールと激しく身体を交えたためか、身体のあちこちがいたい。途中強く引っ張られたためか首輪の跡が首に赤黒く残っている。  ああ、もしこの跡をラインがみたらどう思うだろう、椛は少し痛むソコを摩りがらそんなことを考える。 「……あれ、」  ふと、気付く。今、自分はとんでもないことを想ったのではないかと。今までどんな跡をつけられようが気にしたことはなかった。それなのに、今、自分は。 「おーい、ナギー! ナギ、いるかー?」 「……!」  この声は。椛は今しがた脳内に浮かべていた人物の声に、びくりと身体を震わせた。どうしよう、居留守でもしてみようか、いや、ラインは自分がここにずっといるということを知っている。顔を出さなけれはずっと彼は名前を呼び続けるだろう。もしもそんなことをされれば、アウリールに見つかってしまうかもしれない。 「ちょっと……静かに……!」 「あ、ナギ! おはよう! でもおまえが何言っているのか聞こえない!」 「ですから……」  ずっと塔に閉じ込められていた椛は、大声を出すことに慣れていなかった。そのため、これ以上声を張れと言われても難しい。 「……ああ、もう……!」  かくなる上は。仕方ない、別に彼と話したいとかそんなわけじゃなくて。ただ、アウリールに見つかってはいけない、それだから。 *・。*・。*・。*・。* 薔薇の香りのなかであなたに抱かれるわ 暗い塔のなかでわたしはただ あなたのキスを待っているの *・。*・。*・。*・。*  するすると薔薇の花が小窓への道をつくっていくと、ラインヴァルトはそれを軽々と登ってきた。すとん、と部屋に入ってきた彼は「よっ」、と片手をあげて爽やかな笑顔を浮かべる。椛はパッと目を逸らすと、ぼそりと呟いた。 「……あんなところで騒がないでいただけませんか」  わざと不機嫌そうな表情をした椛をみても、ラインヴァルトは気にする様子はない。なにやら楽しそうににこにことしながら椛に近づいてくる。

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