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ラインヴァルトがいなくなった部屋は、しんと冷たい空気で満たされていた。赤く染まり始めた空の光が床に横たわる椛を照らしている。はだけたままの自分の純白のドレスが、夕焼けの赤に染められる。
「……」
もし、あのとき外からあの声が聞こえなければ、どうなっていたんだろう。ラインヴァルトが唇で触れた胸を、椛はそっと指でなぞった。
「ん……」
熱がよみがえる。大きな手で身体を優しく撫でられながら、ここを吸われて……
「ぁ、」
椛は横になったまま身体を丸め、指先でそっと身体の愛撫を始めた。ラインヴァルトの逞しい体なら、この小さな身体を包み込めるだろう。こうして横になったこの身体の上に、覆いかぶさって、腕の間に閉じ込められて。小さくもがいたところできっと逃してくれない。この唇から勝手に漏れてしまう声をラインヴァルトは聞き取ってしまうから。悦んでいるということは当たり前のようにバレていて、たとえ言葉で否定しても彼は笑ってながしてしまう。
「あっ、んぁ……」
ああ、この先は。どうやって彼なら触るだろうか。あそこでどうして止められてしまったの。もっと、もっと、彼の指で触れられてみたかった。熱を感じ合いたかった。
……彼に抱かれたかった。
「んっ、ん……」
そっと、ドレスをたくしあげてゆく。太ももに手のひらを這わせ、ゆっくりと、ゆっくりと。乳首を指先でやわやわと揉みながら臀部を撫で回せば、唇からはらりはらりと甘美な声が零れてゆく。まるでその声は可視であるかのよう。妙に頭の中に響き、椛の意識を嬲ってゆく。
――こんなことが赦されるのだろうか。
「はぁあぁ……ッ!」
つぷ。小さな滑りけを帯びた音をたてて、指が中に入ってゆく。屈託のないラインヴァルトの笑顔を思い出して心が痛む。愛を教えてくれると優しい声で言いながらこの身体に触れた彼を想いながらこんなことをするのは、間違っているような気がした。ただ独りでこんなことをしても生まれるのは快楽だけ。そのためにラインヴァルトの優しさの記憶を使ってしまうのは。
「あっ……あ、……ふ、ぅあっ!」
涙を流し、自分を戒め、それでも指が止まらない。指の動きが激しくなるたびに心は苦しくなってゆくのに、身体は気持ちいいと言っている。
「はぁ……は、っ、ぁあ……!」
身体の揺れに合わせて布の擦れる音。指を伝う、快楽の雫。嗚咽混じりに甘い声。
罪深い私をどうか赦して。貴方を想ってこんなことをしてしまう私を赦して……。何が間違っている、なぜ苦しいの。そんなこともわからないまま、ただ椛は声にならない謝罪を繰り返した。絶頂の波が迫り来ると、その罪悪感は深みを増してゆく。
「あっ! ん、ッ、あぁっ!」
ごめんなさい……ごめんなさい……!
「いく……っ、いっちゃう、いっちゃう……!」
ビクッ、と身体が跳ね、指を飲み込んだ穴がぎゅっと締まり、這い上がってくる快楽に椛は身を委ねた。あまりにもそれが気持ちよくておかしくなってしまいそうになったから、椛は乳首を揉んでいた指を咄嗟に咥えて必死に堪えた。小さな身体の痙攣は、なかなか止まらない。椛は身体を縮込めて、なんの意味もなく「たすけて」と頭の中で言いながら身体が静まるのを待っていた。
「は……は、ぁ……」
熱が引いてゆくと、零れる涙が虚しく思える。穴から抜いた指から糸が引いて、それがひどく穢く見える。
なんでこんなことをしてしまったんだろう。
泣いて、泣いて、泣いて。
ラインヴァルトのことを想うとこの淫らな行為がひどく浅ましく思える。今までそんなことを思ったことはないのに。
「――おや……ラプンツェル……随分と可愛らしいことをしているじゃないか」
「――!? アウリール、さま……」
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