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「やっ……ん、」  逃げようと椛はほんの少し身を引いたが、ラインヴァルトはそれを追いかけた。ちゅ、ちゅ、と小鳥が花の蜜を啄むように触れるだけのキスを繰り返す。もどかしく、淡く、優しく灯る熱を、何度でも、何度でも。 「んっ……んっ、ん……」  椛の身体から力が抜けてゆく。さらさらとした黒髪を掻き混ぜ、そっと細腰を抱いて、怯える椛の心への愛撫を繰り返した。 「あ……」  唇を離すと、椛はくたりと身体をラインヴァルトに預けた。はぁはぁと小刻みに呼吸を繰り返し、その熱にうなされているようだった。 「ナギ……ゆっくりでいいよ」 「……?」 「俺が、教えてあげるから」  ラインヴァルトが椛をそっと抱きしめる。顔を椛の肩に埋め、ゆっくりと熱を共有する。  ひく、と小さな嗚咽がラインヴァルトの耳を掠めた。はらはらと椛の瞳から溢れる涙が、ラインヴァルトを静かに濡らしてゆく。 「ほんとの愛、俺と知っていこうな」  あまりにも優しいその抱擁が。心にじわりと染み込んでゆく。何故自分が泣いているのかもわからずに、椛はひたすら泣き続けた。今更のように痛み出すアウリールにつけられた傷。  怖い、怖い、触れないで。もっと、もっと……強く抱きしめて。心の中でぶつかり合う相反する気持ちが、苦しい、苦しい。  小さな子どものように泣きじゃくる椛の肩はひどく細く。抱き締めれば、壊れてしまうのではないかと怖くなる。それでもラインヴァルトはその身体を強く、強く抱きしめた。恐る恐るその背に回されたか細い手を感じて、加減が効かなそうになった。  顔を上げて、再び目を合わせる。怯えるようにふるふると顔をふる椛の顎を掴むと、ラインヴァルトは食らいつくように唇を重ねた。 「んんっ……」  唇の隙間から舌を差し込むと、びくりと椛の身体が震える。椛の舌は逃げるように引っ込められたが、ラインヴァルトが優しく頭を撫でてやると、遠慮がちに絡めてきた。 「ふ、ぁ……ん、んん……」  ぴくん、ぴくんと椛の身体が小さく跳ねる。頼るところを探るように椛の手のひらはそっとラインヴァルトの胸に添えられ、そしてやがてしがみつくようにぎゅっと握り締められた。  はくはくと唇から漏れる吐息が混じり合う。そっと瞼を開ければ熱を孕んだ瞳と瞳の視線が溶け合った。  瞳には引力があるのだろうか、瞬くたびに星屑のように光が散るその美しさから目が離せない。見つめ合い、舌を絡めて、融け合って。夢中で、キスを繰り返していた。 「あっ……やぁ……」 「じっとしていて」 「ひゃぅ……」  する、とラインヴァルトは唇を耳までもってくると、耳たぶを軽く食んだ。吐息が耳の中に入り込んで、熱いのにゾクゾクとした感覚が背筋を這い上がる。椛はふるふると震えながらも唇を噛んで耐えた。ラインヴァルトの服にシワが出来るほどに手に力を込め、崩れそうな腰をなんとか膝で支える。 「ナギ……俺、好きなんだ。ナギのこと、好き」 「あぁ……っ、や、言わないで……」 「好きだ、ナギ。大好き、愛している」 「やめ……おねがい、だめ……あっ、あぁあ……」  何度も、何度も、何度も。ラインヴァルトは椛に「好き」と囁いた。その言葉は更なる熱を生む。低い声で、耳元で、そんな熱くて甘くて切ない言葉を囁かないで。身体の力が抜けてゆく、一人で立っていられなくなる、おかしくなってしまう。怖くて苦しくて、だからラインヴァルトに身をすべて任せて「だめ」と絞りだすように言ってもやめてくれないから。 「――あっ……あぁああ……」  頭が真っ白になった。身体がびくりとしなった。ほとんど触られていないというのに。その感覚は間違いなく、絶頂を得た時と同じものだった。

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