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「ライン……僕は……」 「……うん」 「僕は、」  はらはらと花弁のようにこぼれ落ちる涙を拭い去るよりも。貴方の熱に触れたかった。回された腕をきゅっと握りしめた。厚い胸板にそっと頬を寄せた。 「僕は……とても、穢い人間です。貴方の笑顔が眩しくてしかたないのです。この塔の中で、僕は辱めを受けながらもそれを悦びと感じていました。きっと貴方の想像以上のことを、僕は悦楽としてやっているでしょう。そして、貴方の好意を僕はその延長線上のように受け止めているのです。ただこうして抱きしめてくれるだけでは、……口付けを交わすだけでは足りないと……そんな、浅はかな想いを抱いているのです」 「……ん? それは、えーっと……俺とセックスしたいって言ってる?」 「……気持ち悪いって思ったでしょう。貴方が綺麗だって言った肉体にくたいの中が、こんなに淫らな欲望にまみれているなんて」  隠せばいいのだ。アウリールとの淫行を、身体は拒んでいないということを。被害者面すれば、きっとラインヴァルトは同情してくれる。椛に悪い印象など抱かない。 ――それはわかっていた。  しかし、黙っていることができなかったのだ。自分の穢い部分を隠してこの人に好かれようとすることが、ひどく罪深いことのように思えたから。だから、これでラインヴァルトに嫌われたところで後悔しない。いいや、嫌って欲しい。貴方に嫌われたのならばきっと……この苦しみからも開放されるだろうから。 「ねえ、ナギ」 「……はい」 「それって普通じゃないの?」 「……え?」  ハッと椛は顔を上げる。予想外の軽いトーンで吐いたラインヴァルトの肯定の言葉に、驚いてしまったのだ。 「好きな人とセックスしたいのって、おかしいことじゃないじゃん?」 「……そ、それはそうですけど……そ、それに僕は……アウリール様と……」 「あの男がおまえをそうしたっていうことは、許したくない。でもナギを咎める理由にはならない。あの男はおまえをここに閉じ込めて、ずっとそういうことをして……半ば強制的にそんな風にしたんだ。ナギが気負う必要はないと俺は思うけど」 「……だって。僕がそういうことが好きだという事実は変わらない。貴方の純粋な想いに応えることなんて、僕には」 「――純粋? 俺だってナギとセックスしたいけど」 「……は」 「初めてみたときから、おまえはなんて儚いんだろうって、そう思っていた。そして、身体に残る痛々しい傷跡が、俺の欲をなんとなく抑えつけていた。……俺がおまえを抱いたら、おまえが壊れてしまうんじゃないかってそんなふうに思ったよ。でもね、正直に言えば、俺はおまえとしたい。触れたいよ、抱きたいよ、おまえが俺に感じているところを見たい。ナギの全部を、知りたい。……好きだから」  あまりにも率直で情熱的なラインヴァルトの言葉に、椛はもうなにも言い返せなかった。そっと、顔をあげて、ラインヴァルトと目を合わせる。 「ライン……僕……したい。ラインと……したいよ……」 「うん……俺も。椛のこと、抱きたい」 「ライン……」 「……ん、」 「好き……」  ラインヴァルトの瞳が、大きく見開いた。花の香りのようにふんわりと、掠れた声で囁かれた告白に、胸の奥が震えたような気がした。  君はたしかに、「好き」という気持ちを知らなかったはずなのに。  嬉しくて、泣きたくて、強く強く抱きしめたくて。溢れるたくさんの想いをどうにか抑え込んで、ラインヴァルトは言う。 「ナギ、俺も……俺も好き!」  椛は、うん、と微笑んだ……と思いきや、はにかんだように、にっこりと笑う。お互いの嬉しいという気持ちが爆発したみたい。心の中ではやくはやくと焦る愛おしい感情が、体中の血流を加速させている。なんとなく震える手を椛の頬に添えると、椛はそっと手を重ねてきた。 「ナギ……キス、していい?」 「うん……して。ライン……キスして」  ああ、好きだ。  椛が静かに瞼を伏せる。長い睫毛に見惚れる余裕なんてなかった。薔薇の蕾のようなその唇に、ラインヴァルトはまっすぐに口付けた。  触れるようにそっと、重ね。鼻先を掠めた、薔薇の香りと涼風の冷たさ。融け合う熱のなかに感じた、カサついた唇の感触が愛おしい。扉をノックして開くのを待つようにじりじりと求める気持ちを押さえつけて、その焦れったさすらも心地好い。 「ん……ん、」  椛はラインヴァルトの首に腕をまわし、背伸びをして必死にキスをした。キスなんて前戯としていつもアウリールとやっていたのに、キスの仕方を忘れてしまったかのように、それは不器用極まりないキスだった。息継ぎの仕方がわからない、どう角度を変えればいいのかもわからない。ちょっとだけ息苦しいとそう思ったけれど、無我夢中でするこのキスが本当に気持ちいい。ラインヴァルトと気持ちが繋がった嬉しさに溢れる嗚咽を混じらせながら、椛は何度も何度も、キスを求めた。 「あ、……ん、……ライン……ライン……」 「ナギ……」  猫がじゃれてくるような、そんな拙くて可愛くて甘いキスが、愛おしくてしょうがない。ちゅ、ちゅ、と繰り返される軽いキスは、それでも仄かに熱を灯していて、ラインヴァルトの心の中に穏やかな炎をつけてゆく。抱いた腰の細さ、撫でたさらさらとした絹のような髪の毛。彼のすべてを、自分のものに。そんなたしかな情欲に蓋をして、ささやかな愛の交わりを楽しんで。本当はいますぐに抱きたいと思ったけれど、あまりにもこのキスが気持ちよかった。 「んっ……ん、ん……」  舌を交わらせる。そして同時に、ラインヴァルトは椛のドレスを解いていった。肌を風に撫でられてぴくりと身じろいた椛も、ラインヴァルトのシャツのボタンをゆっくりと外してゆく。  そっと開いたその瞼の下には、光が泳いでいた。深いキスを交わしながら見つめ合い、晒した肌を触れ合わせてゆく。気温が低いかったからか、肌が少し冷たい。しかしじっと抱き合っていれば、氷を溶かしてゆくようにじんわりと、熱が体内から溶け出てくる。椛のすべやかな肌はラインヴァルトの肌にしっとりと馴染んで、いつまでも触れていたいと思うほどに気持ちいい。 「あぁっ……」  ラインヴァルトが椛の腰をぐっと引き寄せて敏感なところをすりあわせてやると、椛はたまらず唇を離して儚い声をあげた。少しだけたちあがったそれを、ラインヴァルトはぐいぐいと押しこむようにこすりつける。酸素を求め逃げた椛の唇に噛み付いて、半ば強引にキスを再開させて、そしてさらに下腹部への刺激を強めていって。それでも椛は悶えながらも拒むことはなく、時折苦しそうな声を上げながらも自らも腰を動かしていた。遠慮がちに、慎ましく。恥ずかしいと言わんばかりに顔を赤らめ瞳を潤ませ、それでもラインヴァルトと快楽を共有しようと懸命に腰を動かす様子が、ラインヴァルトは愛おしくて堪らなかった。 「ふ、ぁ……ぁん、ん……」 「ナギ……可愛い……好き、ナギ……」 「……っ、ライン……すき、……すき、好き……」  ぐずぐずに泣きながら椛は「好き」と何度も囁いた。どうしてこんなにも愛おしいのか、何故胸がこんなにも満たされるのか。椛の唇から零れる「好き」を聞きたいという気持ちと、キスをしたいという気持ちがぶつかりあって胸を焼く。 「ふぁ、ぁ、んん……すき、ぁ、すき、……」  ぬる、と先から伝う液体を感じると、ラインヴァルトはさらに動きを早めた。先が不安定にこすれ合ってもどかしい気持ちを煽られて、余計に激しくなってしまう。荒くなる呼吸、交じり合う吐息。目の前の泣きながら感じている椛の様子に、くらりと目眩を覚えた。  指先で、身体を愛撫してゆく。背筋、腰、脚。胸の先を摘んでやると、椛がくぐもった高い声をあげた。弄る場所によって反応が少しずつ違う。椛の感じるところを知っていくことを、幸せだと思った。 「ナギ……気持ちいい……?」 「……うん、きもち、いい……もっと、さわって、……ライン……」  そっと腰を下ろす。本当は押し倒して、組み敷いて、自分の下で溶けてゆく椛をみたいと思ったけれど、冷たい石畳の上に寝かせるなんてことができなかった。ラインヴァルトは胡座をかいて、その上に椛を座らせる。 「は、ぁあっ……」  指を一本、椛の中に入れた。つぷ、と秘めやかな音をたてて指が沈んでゆく。柔らかく、ラインヴァルトの指にねだるようにぎゅうぎゅうと絡みついてくる肉壁。零れて伝う精液を絡めながらゆっくりと奥へ進んでゆくと、小さな膨らみにたどり着く。 「あっ……! ライン……ま、って……そこ、だめ……!」 「……ここ、いいところなの?」 「――っ、ふ、ぁああ……! や、や……こえ、でちゃう……はずかし、から……まって、まって……ライン……」 「……いいよ、聞かせて。俺、もっと聞きたい。ナギの全部、知りたい」 「あっ、あっ、ひゃぅ……!」  椛の気持ちいいところを見つけたラインヴァルトは、そこをじっくりと責めだした。ぐいぐいと押して、撫でて、中が蠢く感触を確かめながら、椛の快楽を煽ってゆく。指をもう一本増やすと、今度は二本の指で挟むようにしてこりこりとさすりあげた。

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