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「……、ナギ、……俺、そろそろイキそう……」 「は、ぁっ……らいん、……イッて、……ぼくの、なかで……い、って……!」 「……いいの? ……なかに、出して……」 「だして……らいんの、……なかにいっぱい、ほし……」  何度椛はイッたのか、ようやくラインヴァルトにも絶頂が訪れた。ラインヴァルトは再び強く椛を抱き寄せる。抜き差しをやめて、じっと全身を触れ合わせ、そして、放った。中にじわりと熱が広がって、陰茎がびくびくと揺れる感覚がたまらない。椛は融けたようにくたくたな表情をして、ラインヴァルトに縋りつくようにもたれかかった。 「あぁああ……らいん……」 「ナギ……」 「あつい、……きもちいい……」  椛はそっと顔をあげると、ラインヴァルトにキスをする。子猫が戯れるかのような、唇を触れ合わせて、すりすりとすりあわせて、ちゅ、ちゅ、とつつくような、そんな拙いキス。そんな淡い熱でも、すごく幸せだと思った。ラインヴァルトは目を細めて、椛の頭を撫でる。 「ライン……僕、幸せ」 「……俺もだよ」 「……うん……幸せ」  しばらく、繋がったまま抱き合っていた。キスをしたり、身体を撫でたり、そんなことをしながら愛し合った。日が落ちて、僅か肌寒くなった頃になって、ラインヴァルトが言う。 「ここから逃げよう」  真っ直ぐに、力強く。しかし、椛はそれに頷こうとはしなかった。ラインヴァルトのことを信じることができないわけでもない、もちろん彼との幸せを望んでいる。椛が恐れていたのは、アウリール。もしも脱走が彼にバレたりしたら、ラインヴァルトがどんな目にあうことか。 「……だめ、です。アウリール様にバレたら、ラインが……」 「……俺はもう、ナギがアイツに虐げられることに耐えられない。おまえをここから出したいんだ、たとえ俺が危険な目にあおうとも」 「でも……」 「明日……この塔の下に馬車をひいてくる。昼間ならアウリールは気付かないだろう? 大丈夫、俺とここから逃げよう。そして、俺の城についたら、式をあげよう」 「……式?」  まだまだラインヴァルトを制する言葉を言いたいところであったが、思わず椛はそこに反応してしまった。きょとん、とラインヴァルトを見上げれば、彼はにっこりと笑う。 「……結婚しよ」 「え」 「うん、俺と結婚して、ナギ」 「……だ、だめです!」 ――結婚。  その言葉に、胸が高鳴ったのを覚えた。この寒くて冷たい塔から抜けだして、暖かなお城でラインヴァルトと一緒に過ごせたら、きっとものすごく幸せだと、そう思う。 「……なんで?」 「……だって……僕は、子供を産めません」  しかし、うなずきたい心を押さえつけたのは、自らの性別であった。今まで散々女のように抱かれた椛は、男と恋愛をすることに疑問を覚えたことがなかった。……ここにきて、初めて自分の性別を呪ったのだ。ラインヴァルトは一国の王子。子供の産めない男と婚姻することなど、許されるはずがない。 「……世継ぎが……生まれなくなります……僕と結婚したら」 「……ナギは俺と結婚したくないの?」 「……したい、です……ラインのこと、好きです。……でも」 「ナギがしたいなら、しよ。俺がナギを幸せにするからさ!」  本当は結婚したい。したいけど、ラインヴァルトのことを考えると「はい」と言えない。泣きたいのを我慢して、椛は必死に否定を口にする。 「……ですから……! 貴方は王子なんでしょう!? 次の王子はどうするんですか、王家に子供ができないなんてこと、あってはいけません!」 「――いらないよ、世継ぎなんて」 「は……?」 ――ジ  瞬間、強烈な頭痛が頭にはしる。椛は思わず頭を抱えてうずくまる。今まで聞こえていたはずの小窓から入ってくる自然の声たちが一斉に消え、ノイズ音と心電図の甲高い心肺停止音のような音が響き、そして……視界が真っ赤に染まった。驚いて顔をあげた椛は、そこにいたモノをみて、悲鳴をあげてしまう。 ――ジジ 「……、なんで、」 ――そこにいたのは……椛。  自分だった。しかし、その顔は血に塗れ、片目は抉れ、そして不気味に笑っている、というあまりにも今の自分とは乖離した、自分。 「……イラナイヨ、世継ギナンテ。ダッテ、キミノ幸セガ確定シタ瞬間ニ、コノ物語ハ終了スルンダカラ」 「――ナギ? おい、ナギ?」  ラインヴァルトの声が聞こえる。瞬きと同時に、視界が元に戻る。目の前には、今の気味の悪い自分が現れる前までそこにいた、ラインヴァルト。何事もなかったように彼は椛に話しかけてくる。 「……ライン」 「……ナギ? どうしたんだよ、ぼーっとして……」 「え……ライン、ねえ、今……」 「ん? そうそう、続きな! ナギ!」 「……うん」 「……結婚しよ」 「え」 「うん、俺と結婚して、ナギ」 「――……!」 ――戻った。  先ほどの全く同じ会話を繰り返していることに、椛は気付く。そう、椛がラインヴァルトからのプロポーズを断る前の時空に、巻き戻ったのだ。ありえない現象に椛は混乱しながらも、どこか冷静だった。ここで先に進むには「YES」と言えばいい、その答えをすぐに頭は導き出す。 「……うん、ライン……結婚、しよう」 「……本当に!? やった、ナギ、愛してる!」 「……僕も……僕も、ラインのこと愛してるよ」  声が震える。あのバケモノは一体なにを言っていたのか。本当にこのラインヴァルトという男は、生きた「人間」なのだろうか。その不安で胸がいっぱいになる。――もしかしたら、幻なのではないか。あの悍おぞましい空間と同質の、幻―― 「ナギー! 大好き!」 「……っ」  しかし、抱きしめられて、その不安が和らぐ。たしかに、今の今まで触れ合っていた、熱を感じ合っていた。腹の中にたしかに存在するラインヴァルトの出したものの感触も、すべて。確かにこの肌で、肉体で、実際に感じ取ったもの。 ……幻なんかではない。  おかしくなったのは、自分のほうだ。椛はそう思い直すことにした。ラインヴァルトの存在を疑った自分が莫迦なのだ。きっと、一瞬だけ眠りに落ちて、悪夢を見ただけに違いない。今まで知らなかった幸福を知って脳がびっくりしたのだ、そうに違いない。 「ライン……大好き」 「ああ! 俺も!」  ラインヴァルトを好きだという気持ちは紛うことなき本物だから。椛はラインヴァルトの胸に顔を埋め、微笑んだ。芳しい腕にぎゅっと抱きしめられて、ああ、熱い、とそんなことを思う。 ――まるで、夢のように、幸せだ。

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