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「ヘンゼル、おはよ!」
「……あ、おはよう」
日が昇り、ヘンゼルはいつものように町にでた。小さな店や露天商が犇めくこの町には、たくさんの人で溢れかえっている。どこか煤 けた臭いが鼻をつき、少し路地裏に入ればドラッグの売買も盛んに行われていた。
ヘンゼルに声をかけてきた青年・テオはヘンゼルの悪友だ。ボサボサとした金髪とそばかすがチャームポイントで、町のいたる情報をもっている。
「なあなあ、今日はこの町に人がいっぱいくるぜ。財布すっちまおう」
「……なんでそんなに今日は人が多いんだ」
「『トロイメライ』のサーカスが開かれる……ってそれくらい知っておけよ」
「あ、ああ……そういえばそんなこと聞いたことある気がする」
『トロイメライ』は主に見世物小屋として生計をたてている組織だ。普段は大きな街で店を構え、そこで「珍しい生き物」をつかったショーをしているのだが、今日はその『トロイメライ』がこの町にきてサーカスをするらしい。『トロイメライ』は非常に有名な組織であり、この町の人々も今宵のショーを楽しみにして浮き立っている。
「な、いこうぜ、サーカス!」
「え……やだよ金かかるし」
「そんなに高くねぇって! なんなら俺が払ってやるからさ! 見たいんだよトロイメライ!」
「……わかったよ、仕方ねぇな」
ヘンゼルは正直気が乗らなかった。見世物小屋を生業としているというのがどうにも気に食わなかったのだ。一度見世物小屋のポスターをみたことがあったのだが、普通のかたちをしていない人間の写真が載っていて、その人間を使って商売をしているのかと考えるといい気分にはなれなかった。
ただ、今回はあくまで「サーカス」。そういった奇異な存在を見世物とするショーではなく、トロイメライの団員自ら演じるもの。そこまで渋る必要もないかと、なんとなく承諾したのだ。
嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねるテオをみて、ヘンゼルはふっと笑う。テオもヘンゼルと同じく窃盗・恐喝でなんとか生きている人間ではあるが、まだ子供なのだ。サーカスを楽しみに、目をきらきらと輝かせるテオは子供そのものだった。
「……そんなにいきたかった?」
「うん! 俺めっちゃサーカスみたかったんだ! でも遠くの街までいく金も体力もないし……この町にくるって知ってすっごく嬉しくてさ! でも一人でいくのって勇気いんじゃん? だからさ、ありがとな、ヘンゼル!」
「……ううん」
テオが無邪気に笑っているのもみて、ヘンゼルも釣られてサーカスが楽しみになっていた。こんなにも彼が楽しそうなら、自分も楽しまないと損だと、そう思ったのかもしれない。
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