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「……?」
体の節々に痛みを感じ、ヘンゼルはゆっくりと瞼をあける。視界に入ってくるのは、鉄の檻。ジャラ、と響いた硬質の音は自分を拘束する鎖の音のようだ。
「あれ、ヘンゼル君。おはよう?」
「ここは……」
声をかけてきたのは、牢の前に立っていた白衣を着た男。手に持ったファイルから写真のようなものを取り出してはじっくりと眺め、そしてまたしまう……彼はそんな行為を繰り返していた。
「ヘンゼル君……君はねェ~、醜くしてしまうのはもったいないねェ」
「……は?」
「ど~んな改造にしようかな~って考えているんだよ。全身に白蛇の鱗をつけるのもいいかと思ったけどねェ~、せっかく君は綺麗な白い肌をしているからもったいない」
「ちょっと、まてよ……」
やはり「改造」とは想像していた通りの意味のようだ。動物の体の一部を、人間に取り付け、それによって異常な体をした人間を生み出すのだ。自分がそれをされようとしている。それを理解した瞬間、ヘンゼルは体の震えが止まらなくなった。あのポスターにのっていたバケモノたちと同じにされてしまう。
「ヘンゼル君、私はねェ、君の黒髪がとてもとても素敵だと思うんだ。黒い羽でもつけたらどうかなと思って」
「……ひっ、」
白衣の男はヘンゼルの視界から一旦はけたかと思うと、また現れる。ガラガラと檻のようなものをその手にひきながら。
「堕ちた天使のような……大きな黒羽をつけてはみないかい? そう、この鴉たちの羽根を毟り取って君に移植してあげよう!」
檻の中には、大鴉が何十匹。ギャアギャアと喧しく鳴きながら檻の中を暴れまわっている。
本気か。本当に、このただの鴉の羽根を、人間の背中に植え付けるつもりなのか。
「まっ、まって、ほんとに、やるつもりなのか」
「冗談でこんなこと言わないさ」
「ひっ、人の体に動物の体の一部を付けるなんて……おかしいだろ、そんな」
「ドクター! それ! そいつ捕まえてくれ!」
ヘンゼルの言葉を、誰かの叫び声が遮った。その声と同時に、何かの足音が聞こえてくる。
「……ッ!?」
白衣の男――ドクターの前を、得体の知れない生き物が横切る。びた、びた、と不規則に前足(?)と脚で跳ねながら、遠くから聞こえる怒声から逃げるように走っていた。緑の体、てらてらと光るのは肌を覆う粘膜……まるで爬虫類のような容貌をしたソレは、たしかに、人間だった。ギョロギョロと目を動かしながら無我夢中に走るその姿は気を違えたようにしか見えない。
あまりにも気味の悪いその生物に、ヘンゼルの脳が拒絶反応を起こした。込み上げてきた吐き気をなんとか飲み込んで、それからはソレを視界に入れないように塞ぎ込む。
「ああ~頭ダメにしちゃったかな~? 使った蛙に寄生虫が宿ってたのかな~? 頭食われちゃったか」
ダン、と激しい音と共に、「ゲェッ!」と人間のものとは思えない声が聞こえた。ヘンゼルが恐る恐る顔を上げてみれば、そこには血塗れのソレ。ドクターは煙をふく銃をプラプラと持ちながら、にこ、とヘンゼルに笑いかけてみせる。
「大丈夫大丈夫! ヘンゼルくんはこうならないように気をつけるからさ!」
「ど、どこにそんな保証があるんだよ……! そもそも人間と動物なんて組み合わせたら変になるに決まってるだろ!」
「ちょっとくらい変になってもダイジョウブ! ね、この鴉にはちゃんと感染症予防のワクチンうってあるから!」
「知らねぇよやめろ!」
べったりと床に這いつくばる蛙と人間の融合体をみて、ヘンゼルは本格的に恐怖を覚え半ばパニックに陥った。あんな風に死にたくない、あんな気味の悪い生物になりたくない……!
ドクターが牢の中に入ってくる。ヘンゼルの首に付いている首輪の鍵らしきものを指で弄びながら、その瞳に知的好奇心を蠢かせて。
ただ、震えることしかできなかった。手足が拘束されているからとか、そんな物理的な話ではない。まさしく蛇に睨まれた蛙の状態。本能的に、彼に支配されていると感じてしまったからだろう。
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