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「あ……」
唇を離すと、ヴィクトールはにやにやとしながらヘンゼルを見下ろした。なんだよ、とヘンゼルが睨みつけると、へらっと(馬鹿っぽく)笑う。
「ん~、ヘンゼルくんやっぱり可愛いなぁ」
「はぁ?」
「ヘンゼルくん、君が僕のものになるなんてさ、夢みたい」
「……何言ってんだよ、俺はおまえのものなんかになってない……」
「え? 僕のものだよ。まあ、永遠にかどうかはわからないけど、今は確実に」
「……なにが、確実にだよ……俺はおまえなんか……」
「わからないかな。じゃあさ、もっとわかりやすくしないと」
ほら、そう言ってヴィクトールはヘンゼルの手を引いて立ち上がる。まだ服も着ていない、とヘンゼルは慌てるが、ぐいぐいと強く引っ張られてそのままベッドを降りて部屋のなかをよたよたと歩いた。少し歩いて壁にとりつけてある姿見の前までくると、ヴィクトールはそこにヘンゼルを映すようにして、自身もヘンゼルの後ろに立つ。
「……わかる? 雰囲気でもう、昨日までの君とは違うって、わかるでしょ?」
「……ッ」
「……君は僕に抱かれたんだよ」
耳元で囁かれ、ゾクッと熱が沸き起こる。恐る恐る鏡をみれば、そこに映るのは……ヴィクトールの前で、艶かしい裸体を晒す自分。たしかにその体は筋張っていて、ヤセ型ではあるが男性らしい体つきをしているはずなのに、……していたはずなのに、どこかいやらしさが漂っていて、完全に「抱かれる」側の男の身体になっていた。抱かれているところを想像しても、違和感がないような、そんな身体。
「……みてて」
「あっ……」
ヴィクトールは後ろから、クッとヘンゼルの顎を掴む。そして、見せつけるようにしてヘンゼルの首筋に唇を這わし……吸う。
「い、た……」
鏡にうつるヴィクトールに見つめられながら、ヘンゼルはびくりと身体を揺らす。唇が離れてゆけば、そこには紅い鬱血痕がひとひら散っていた。
「……僕のものっていう証。ヘンゼルくんは肌が白いから、綺麗に映えるね」
「……ッ」
「……もっといっぱいつけてあげる……鏡から目を逸らさないでね。自分が僕の痕でいっぱいになるところ……全部みているんだよ」
ちくり、また仄かな痛みが首筋に。たいしたものでは無いはずなのに、その痛みは業火に焼かれたように激しい熱をもって全身に広がってゆく。ヴィクトールが自分に印をつけようとしているのだから。たったそれだけの事実が、その痕に熱を生む。
「ほら、またひとつ、できた……」
ヴィクトールはいくつもの痕を残そうとした。首、肩、鎖骨……ヘンゼルの脇に移動して、たくさんの花弁をヘンゼルの肌に散らしてゆく。そうして自分の身体がヴィクトールの残す痕に染められていく様子を、ヘンゼルは黙ってみていることしかできない。白かったはずの肌は、少しずつ、彼の色に侵されてゆく。
「……ヴィク、トール……」
「なあに?」
「もう、……」
「ん……うわ、気付いたらこんなに付けていた。すごいね……ヘンゼルくんの身体、僕につけられた痕でいっぱい……」
胸に痕をつけていたヴィクトールは、ヘンゼルに呼び止められて振り返り、鏡に映るヘンゼルの身体をみて嬉しそうに笑った。10、20……とたくさんつけられた鬱血痕は、白い肌に目眩がするほどに痛々しく、淫靡に映え、直視することが難しいほど。
「……こんなにつけちゃったら……一人でいるときもこれを見る度に、僕に抱かれたこと思い出しちゃうね? ずっとずっと、僕のことしか考えられなくなる」
「……っ、そんな、」
「身体も、頭のなかも……僕でいっぱい。ついでにいうと、」
「ひ、ぁっ……!?」
突然後孔に指を挿れられ、ヘンゼルはがくりとヴィクトールへ倒れこむ。
「ここのなかも……僕でいっぱい」
くちゅ、と卑猥な音がヘンゼルの耳を擽る。その音の正体くらい、ヘンゼルにもすぐにわかった。中を掻き回され、次第に大きくなってゆくその音にくらくらしてくる。
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