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「……なんの音だか、わかるね? ヘンゼルくん」 「……っ、おまえ、」 「ごめんね……中に出すつもりはなかったんだけど……なんだかこうしてヘンゼルくんの中に僕のものがいっぱい入っているって……興奮する」 「ばか、じゃねぇの……んっ……」  つう、と中からソレが零れてきた。内ももを伝ってゆく感触に、ヘンゼルはかあっと顔を赤らめる。それでもヴィクトールはそこを虐めるのをやめないから、次々とそれは溢れ出てきて…… 「……ヴィクトール……やめ、」  少し、寂しいと思った。だらだらとヴィクトールにいれられた精液が自分の中から出て行くことに、喪失感を覚えた。でも、こうしてビクビクと震える身体をヴィクトールの腕に抱かれて、ぎっちりと押さえつけられながら、たった一本の指でこうして狂わせられている――ヴィクトールにしがみついて、中を虐められて、支配されているこの感じが……堪らない。 「ヘンゼルくん、ヘンゼルくん……答えて。君は、誰のもの?」 「あっ……、ん、誰のものでも、ない……」 「ふふ、強情だね」 「んっ、……んんッ、ぁ……!」  一番弱いところを何度も何度も擦られて、ヘンゼルは達してしまった。自分だけが裸で、自分だけがイかされてしまったのが、少し不満だ。でも身体はイッてしまった余韻に浸りたがっていて、ヘンゼルはヴィクトールの肩に頬を預け、呼吸を整える。 「ねえ、ヘンゼルくん……そんなに言うなら君は誰のものでもないのかもしれないね」 「……」 「でもね、」  ヴィクトールは、そんな自分に頼るようにして身体を預けてくるヘンゼルを愛おしげに見つめ、ぽんぽんと優しく頭を撫でた。そして、そっと唇を耳元に寄せて、言う。 「……僕は、君のものだよ」  掠れた、しかし熱っぽく湿った声で紡がれたその言葉が、ヘンゼルの脳内を犯す。ヴィクトールの表情を確認するようにバッと顔をあげたヘンゼルに、ヴィクトールはにっこりと微笑みかけた。しかし、すぐにヘンゼルを鏡に背を預けさせるように座らせてやると、ふらりと離れていってしまう。 「シャワー、君も浴びておいで。そしたら今日も、君にやってもらうことがあるから」 「えっ、ちょっと、待っ……」 「熱い? 夜になったらいっぱいエッチしようね」 「はっ……!?」  ベッドの上に新しいタオルと服を置くと、ヴィクトールは一旦部屋から出て行ってしまった。ヴィクトールが出て行った扉を見つめ、ヘンゼルは唖然と自らの口を塞ぐ。 「ば、ば、馬鹿じゃねーの、あいつ……」  身体の力が抜けて立てない。全身が火照って目眩がする。ヘンゼルは振り返り、ぼんやりと鏡に映った自分を見つめる。紅い鬱血痕まみれの白い肌。藻掻いた拍子に乱れた髪。熱に蕩けた瞳。 「……ヴィクトールの、もの」  鏡に手を伸ばし、指でつうっと鏡に映る自分をなぞる。もっともっと彼に染められてゆくのだろう。いやらしい身体にされてしまうのだろう。あの悪党に、どこまでも狂わせられて、身も心も囚われて。 「……ッ」  ああ、堕ちてしまった、もう言い逃れもできないくらいに。彼の悪を知っているのに、彼のものとなっていく自分へ抵抗を覚えない、その罪悪感にヘンゼルは塞ぎ込み、鏡を引っ掻き、泣いた。 「……ヴィクトール……」  もう、苦しい。彼のことを考えると苦しい。彼に侵食されてゆく、抵抗すれば抵抗するほどに、余計に心が裂かれるような痛みが襲ってくる 理など消えてしまえばいい、法などなくなってしまえばいい、そうすれば、もっと楽になれる。この胸の中で暴れ狂い、引き裂くような想いを、口から吐き出すことができるのに。 ――壊して。 もう、何もかもがわからなくなるくらいに、私を、 ……壊して。

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