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「あっ……あ、」
肩と腰を抱かれながら、いくつもの痕をつけられる。その度に胸のなかから湧き上がるような歓びが生まれ出る。見られている、ということがどうでもよくなるくらいに、気持ちいい。
「どうしたの? 何を不安に思っていたの? 君が不安に思うなら、何度でも言ってあげるよ、僕は君が好きだ。嘘じゃない、ヘンゼルくん……君を愛している」
「……ヴィクトール、……っん、」
ヴィクトールが食らうようにヘンゼルに口付ける。そのキスに蕩けてしまったように、ヘンゼルは甘い声を漏らした。吸い上げられるように舌を絡めとられ、歓びに震えるように涙を流す。
「……ヘンゼル、」
その様子に、テオとドクターはただただ驚いていた。ドクターは、ヘンゼルがヴィクトールに心を許しかけているということは知っていたが、ここまでだとは思っていなかったのだ。いつも不機嫌そうにしかめっ面をしているのに、ヴィクトールを相手にするとああも蕩けた表情をするのかと、息を呑む。そして、テオは絶望に打ちひしがれていた。自分の知らないヘンゼルが、目の前にいる。知らない男に唇を奪われ、涙を流しながら歓び受け入れる……長い間想いを寄せていたヘンゼルのみたことのない姿は、あまりにも悩ましげで、妖艶で、見ているだけでも体中の熱が茹だるような興奮を覚えた。しかし、ヘンゼルは自分をみているのではなく――ヴィクトールしか眼中にない。胸の中を掻き毟られるような嫉妬が、テオを苛める。
「は、ぁ……」
「……随分と悔しそうな顔をしているじゃないか、テオくん。可愛らしいヘンゼルくんの姿を見ることができるんだ、喜べばいいだろう? ……君がどうしたところでヘンゼルくんのこんな姿をみることなどできないんだから。今しかみれないよ?」
くす、とわざとらしくヴィクトールは嗤う。どうだ僕の愛する者に手をだした愚か者、嫉妬に狂うがいい。紅い眼 が、歪んだ嗜虐に揺れる。
「ヴィクトール……だめ、これ以上……みられたく、ない」
「だめだよ、まだ足りない……ヘンゼルくん、これは君へのお仕置きでもあるんだからね。君は自分の魅力を理解しなさすぎだ、もう二度と……僕以外の男についていくな」
「……でも、……ヴィクトール、まって、」
「君は僕だけに溺れていればいいんだよ」
「んっ……ん、ッ、」
ずる、とヴィクトールの指がヘンゼルの口へ入り込む。そして、もう方の手は胸元の小さな突起を摘んで、指先で転がした。くたりとヴィクトールに身体を預けながら、咥内を犯されるままに掻き回されて、ヘンゼルの意識は朦朧としてゆく。唾液が唇から零れ、それを制御することも許されず、頭の中は真っ白になってゆく。弄くられる乳首は次第にじんじんと熱を持ってきて、触れられるたびにピクンと身体が震えるようになってしまう。
視線を感じる。昔からの悪友が、淫らな自分を見ている。二度と彼には顔を向けられないという絶望と、ヴィクトールの思うがままに感じてしまう自分への悦び、二つの感情が混ざり合っておかしくなってしまうそうだった。見ないで欲しいと羞恥がはたらくのに、変わってしまった自分を見られることに心が震えてしまう。ヴィクトールへ堕ちてゆく、もう這い上がることのできない奈落へ……どこまでも。
「待てよ……もうやめろ、触るな、これ以上ヘンゼルを穢すな……!」
テオの叫び声が虚しく響く。知らない男に触られてまるで女のように甘い声を発するヘンゼルを、見たくないと思うのに目をそらせない。潤んだ瞳でヴィクトールを見上げているヘンゼルは、彼に触られることを心の底から歓んでいるようで、胸糞悪い。しかし、身体をひくつかせ、よがり、乱れるヘンゼルのその姿に、情けなくもテオのものは起立してしまっていた。あまりにも淫靡なその光景は、テオの目を引きつけて離さなかった。
「ヘンゼルくん……テオくんが、君をみてあんなに興奮しているよ。大好きな君のいやらしい姿、もっと見せてあげよう?」
「や、やだ……ヴィクトール……」
ヴィクトールがヘンゼルの服を脱がしにかかる。ヘンゼルは抵抗を示したが、ヴィクトールは手を止めることはない。シャツだけを残し、ほかの身体を纏う全てのものを剥いでしまうと、ぐ、とヘンゼルの太ももを掴んだ。
「あ、あぁ……」
「ほら、テオくん……ヘンゼルくんのここ、みたことないでしょう? よくみておきなよ。ここねぇ、すごく可愛いんだよ。僕のものを美味しそうに飲み込んできゅうきゅうに締め付けてくれる」
ヘンゼルの片脚を持ち上げ、後孔をテオに見せつける。ヘンゼルはあまりの恥ずかしさに顔をぐっとそらしたが、ソコはいやらしくピクピクとひくついて、釘付けになったテオの視線が突き刺さる。
「はっ……そんなに大きくして……ヘンゼルくんの声を聞いているだけでそんなになってしまったのかい? 挿れてみたいだろう……ほら、こんなにヘンゼルくんのここ、柔らかい」
「あ、っ……あぁ……」
拘束されたテオのものは、はちきれんばかりに大きくたちあがる。吐き出すこともできない熱の苦しさに、テオは苦痛に目を眇めた。シャツだけを羽織った、白いヘンゼルの裸体はあまりにも目に毒だ。薔薇の花弁のように紅く散る鬱血痕、ヴィクトールに可愛がられ腫れ上がった胸の頂、たちあがったものの先端から哀しげに溢れ出る悦の蜜。ヴィクトールの指でぐっと広げられた後孔は、排泄器とは思えないほど綺麗で、男を欲しがっているようにぴくぴくと疼いている。そこに熱く膨れたものを挿れたなら、その桃色の肉壁でぎゅうぎゅうと締め付けてくれるに違いない。
「みていろ……いとも簡単に指を飲み込むよ……」
「あぁああ……」
「ヘンゼルくんがちゃんと指を舐めてくれたおかげでスムーズだ……いい子、ヘンゼルくん……ぐちゃぐちゃにしてあげるからね」
つぷ。ヴィクトールの指がそこに挿入される。まるで性器のようなそこは指を拒むことなく飲み込み、物欲しげにぎゅうっと指を締め付けた。ヴィクトールに胸や首につけられた愛の痕を撫でられながらそうしてなかを弄られているヘンゼルは、気持ちよさそうにため息のような熱い吐息を漏らしながらうっとりと目を閉じている。ヴィクトールにすっかり支配されたヘンゼルは、まるで悪魔に魅入られた姫のように、完全にヴィクトールに身体を預け、羞恥を熱に食われ、ただ、与えられる快楽に酔っていた。
「もう、やめろ、やめてくれ……」
恋焦がれていた人が知らない男に酔う姿に、怒りと虚しさを覚える。テオは悲痛な声をあげながら、それでも目の前で快楽に悶えるヘンゼルから目を離せなかった。二本、三本、と指を増やされもヘンゼルは痛がるどころか一層その声に艷を増しながら身を捩る。くちゅくちゅと耳障りな水音はとても排泄器から出る音とは思えない。ヴィクトールはヘンゼルが達しないような絶妙な力加減で指のピストンを繰り返し、ヘンゼルをギリギリのところで焦らして理性を溶かしてゆく。
「はは、無様だねぇ、テオくん……もうそれ、限界なんじゃない?」
「……クッソ、おまえ……!」
「特別サービスしてあげよう。もっと近くで声をきかせてあげる」
ふ、とヴィクトールは服の下で欲望を膨張させているテオを見下すように嗤った。そして、十分に後孔を慣らし終えたヘンゼルを、触手に拘束され動けないテオに抱きつかせるように寄りかからせる。
「……ッ!?」
「ヘンゼルくん、しっかり彼につかまっていて。後ろから突いてあげるからね」
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