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 ヴィクトールにされるがまま、テオにぐったりと抱きついたヘンゼルは、臀部を後ろから持ち上げられて小さく声を漏らす。正面から身体を火照らせたヘンゼルに抱きつかれ、テオは小さなパニックに陥ってしまったが、抱きつかれたということよりも目の前に広がる光景に目眩を覚えた。シャツの裾からはみ出る、白い尻肉。それをヴィクトールががっしりと掴み、欲望を押し付ける。 「んっ……あぁっ……!」 「……ッ」  ヴィクトールの熱いものの先端が入り口に触れ、ヘンゼルはあられもない声をあげる。耳元でそんな声をだされたテオは、身体の内から熱が湧き上がるのを覚えた。 「……っ」  テオは二人の結合部を凝視する。ヴィクトールのものなど見たくはなかったが、同じ男として劣等感を覚えてしまうほどに大きいそれがヘンゼルの後孔に飲み込まれてゆく様子は目眩すらも覚えた。本当に、この男に抱かれていたのだとそう改めて思ってしまう。 「んっ……ん、ぁあッ……」  ヘンゼルの鼻から抜けるような声が耳を掠める。かあっと顔に血が昇る。ヘンゼルはもはや自分が抱きついている相手がテオであるということなどどうでもよく、ヴィクトールから与えられる快楽に耐えようと、ぎっちりとテオにしがみついていた。かたかたと震えながら、歓喜に震えるような、嬉しそうな声をあげながら。テオはどうしようもない苛立ちに苛まれながらも、そんなオンナになってしまったヘンゼルの姿に高揚感すらも覚えていた。 「あぁっ……」  ヴィクトールのものが全て、ヘンゼルのなかに入ってしまう。最後まで入るそのとき、ヴィクトールがぐいっと押し出すように腰を突き出すと、ヘンゼルの全身が大きく揺れ、それに合わせてヘンゼルの口から悦びの声があがる。そのままぐりぐりと腰を押し付けるられているヘンゼルはびくびくとその細腰をくねらせながら、テオの背中を引っ掻いた。 「ヘンゼルくん……昨日よりも敏感だね。どうしたのかな? テオくんに見られて興奮してる? それとも、僕に好きって言われてそんなに嬉しかった?」 「……っ、」 「可愛い……ヘンゼルくん、すごく可愛い。好きだよ、ほら、僕のものもっと感じて。君を突いているもの、僕のものだよ。君は今、僕に犯されている」 「あっ……!」  ヴィクトールがピストンを始める。ヘンゼルの身体が揺さぶられると、その振動が伝わってきて、テオは居心地の悪さを感じた。ヘンゼルはテオの肩口に顔を埋め、はしたない声がこれ以上出ないようにと、必死にこらえている。ただ、その耐えるような上擦った、「んっ、んっ」と秘めやかな声が余計にテオの興奮を煽った。揺れる度に、ヘンゼルのうなじから漂うどことなくいい香りがテオの鼻をつく。耐え切れずテオはその匂いを嗅ぐようにヘンゼルの首筋に顔を埋めた。 「そうそう、テオくん……ちゃんとヘンゼルくんのこと支えてあげてね」 「ふっ……あ、……んんッ……」  いきりたったテオのものが、揺れるヘンゼルの下腹部に擦れる。服越しではあるが、微弱な刺激を与えられ、ますます熱は膨れ上がってゆく。触手に体を絡めとられて動けないのがもどかしい。ゆるやかな刺激が陰茎に与えられるばかりで苦しくて、手で擦って抜いてしまいたい。沸々と湧いてくる情欲がテオを苛める。 「……ひ、ぁッ……!」  我慢はあっという間に限界へ達してしまった。手を動かせないテオは、腰を突き上げて自分の上に乗るヘンゼルの体に陰茎の先をこすりつける。そうすればヘンゼルの声に色は増し、テオの腰の律動の速度を煽ってゆく。 「ヘンゼル……ヘンゼル……」 「あっ、あっ……」  後ろを突かれ、下から熱いものを擦り付けられ。二つの刺激を同時に与えられたヘンゼルは淫らな声を惜しみなくあげだした。 「……」  あまりにも淫らなその光景に、側で見ていたドクターは口元をひくつかせる。二人の男の欲望を煽る、ヘンゼルの色香。初めて会ったときにはここまでこの青年が変貌するとは思っていなかった。それはきっと、頭ひとつ抜けた容姿のせいだけではない。ヴィクトールへの想いがヘンゼルのなかで抱かれることへの歓びを沸き起こし、あんなにも淫猥な表情と仕草をするようになってしまったのだ。長い付き合いであるヴィクトールがあんなにも一人の人間に執着するのを初めてみたドクターは、ヘンゼルの痴態をみて、ここでようやく納得する。これは、欲しくなるのも仕方がないと。ゾッとするほどの独占欲を抱えてしまうのもおかしくないと。 「もう、だめ……いく、イク……」  涙で頬を濡らし、快楽にどろどろにとけたその表情で、ヴィクトールに懇願するようにヘンゼルは言葉を絞り出す。びくびくと小刻みに身体を震わせるその身体は、もう限界に近い。友人であるテオに見つめられながら絶頂を迎えるのが嫌だったのだろう、我慢していたようだが、もうダメのようだった。ゆるして、もうやめて、とでも言うように首を振っている。 「んん? そんなにイきたくない? ヘンゼルくん……イッちゃいなよ、そこで」 「い、や……やだ、……やだ、ヴィクトール……」 「何が嫌なの?」  ヴィクトールがにやりと嗤う。自身の体を揺らし欲望をヘンゼルの体に擦り付けている、テオを見下ろしながら。 「ヴィクトール……ヴィクトール……」  ヘンゼルがよろよろと振り返り、ヴィクトールを見つめる。訴えるように濡れた瞳でヴィクトールに視線を投げかけるが、言葉はでてこない。自分でも何が嫌なのか、わかっていないようだった。 「ああ、わかった……僕の腕のなかでイきたい?」 「……っ、……!」  ヴィクトールに問いを投げかけられ、ヘンゼルはこくこくと頷いた。自分では動けないほどに快楽に溶かされた体は、くたりとテオの体に寄りかかったまま。縋りつくような目線をヴィクトールに送れば、ヴィクトールが勝ち誇ったようにテオに笑いかける。 「ヘンゼルくん……さいっこうに可愛いね……そんなに僕のことが好き?」  ヴィクトールはヘンゼルをテオから引き剥がすと、後ろから抱きしめるようにして抱え込む。背面座位の状態でヘンゼルの表情がテオからも見えるようにしてやると、ちらりとテオを見て、冷たく言い放つ。 「……君はそこで憐れに一人でイッていればいい。ヘンゼルくんが僕に抱かれて達するのをみながら」  クッと吐き出すように嗤い、そしてヘンゼルの唇を奪う。歓びに震えるように目を閉じてヴィクトールのキスを受け入れるヘンゼルは、哀しいほどに美しかった。そのまま腰を突き上げられれば、儚げな声を漏らし、たちあがったものの先からぴゅくぴゅくと白濁液を飛ばしながらあっという間に達してしまう。くたりとヴィクトールに身を預け、はーはーと熱い吐息を吐くヘンゼルの姿はあまりにも淫靡で倒錯的。町の片隅で恐喝をしていた素行の悪い彼はもういない、悪の頭に抱かれ嬌声をあげよがる、そんな別人のようになってしまったヘンゼルの姿にショックを受けながら――テオは一人、布の下で精を吐き出してしまった。 「はは……無様だねぇ……好きな子を目の前で犯されて、それを見てイク気持ちってどんなものなの? 君みたいな凡人は一生ヘンゼルくんを手にすることができない……彼はもう、僕のものだ。よかったね、君がヘンゼルくんのお友達で。そうじゃなければ、ヘンゼルくんに手をだした罰として、君を惨殺していたかもしれない」 「……くそ、……くそ……」 「いいよ、その惨めな姿をみせてくれたんだし、今回はゆるしてあげる。……次はないと思え」  ドクターいくよ、と一言言って、ヴィクトールはヘンゼルを抱えたままお菓子の家へ向かってゆく。ひゅー、と小さく口笛を吹きながらドクターは震えながらうずくまるテオに手を振り、触手の生物を連れてヴィクトールについていった。  残されたテオは、自らの精液でシミになった服を見つめ、惨めさにぼろぼろと泣き出す。あの町で共に過ごした日々の映像をに思い浮かべることは、もうできなかった。そうすると、郷愁に胸が裂けてしまうくらいに傷んだから。先にヘンゼルに手をだしたのは自分だが、ああして実際に男に犯されているヘンゼルを見せつけられて、思い出が穢されたような気がした。もう、わけがわからない。自分がどうしたかったのかもわからない。それくらいにテオはヘンゼルのことが好きで、大好きで、たまらなかった。  目の前にそびえるお菓子の家が、自分とヘンゼルを隔てる大きな壁のように思えた。  もう二度と、彼に会うことはできない。

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