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「ヘンゼルくん……ヘンゼルくん……」
ゆさゆさと体を揺すられ、ヘンゼルはゆっくりと瞼をあける。カーテンから差し込む光にもう朝なのだと気付き時計を見てみれば、いつもの起床時間よりもずっと遅い時間だった。ヴィクトールはベッドの脇に立ち、既に着替えも終わっている。
「ヘンゼルくん……体、大丈夫? ごめん、昨日やりすぎた」
「……ん、……ちょっと怠いけど……平気」
昨夜、ヴィクトールはヘンゼルに言われたとおり、散々にヘンゼルを抱き潰した。行為が終わったあとに、ぐったりと意識を失ってしまって、体中が噛み痕やら鬱血痕でいっぱいで、さらには後孔が長い間抽挿を繰り返したせいでゆるゆるになってしまったヘンゼルをみて、ヴィクトールは激しく後悔した。中に大量に吐き出した精液を掻きだして、体も洗って、そうしてヘンゼルを寝かせて置いたのだが、今の今まで起きなかったところをみると彼にとって相当な負担になっていたらしい。
「ヴィクトール……いつ?」
「?」
「俺が、ドールとするの、いつから」
「あ……夕方から」
ヘンゼルの問に、ヴィクトールはドキリとする。実は、ヘンゼルが目をさます前に、ヴィクトールは今日ヘンゼルとセックスをすることになるドールを決めにいっていたのだが……その相手がとんでもないことになってしまった。それはランダムで決めるもので、意図的にではなかった。
「……それまで俺はどうしていればいい?」
「ああ……この部屋にいていいよ。ゆっくり体を休めていて」
「ヴィクトールは何してる?」
「あと一時間ほどしたら、また外に」
「そう……」
ヘンゼルはチラリと時計を確認する。そして、ヴィクトールの服の裾を軽くひっぱって、ベッドに入るように促した。一緒にいて欲しいのだということに気付いたヴィクトールは、ジャケットを脱いで、布団の中に入り込む。そうすれば、ヘンゼルがひしとヴィクトールの胸にしがみつく。
「……今さ、すごく体が怠くて、……でも、この怠さはヴィクトールに抱かれた証なんだって、そう思って。それから、昨日の記憶がずっとぐるぐるしていて。体も、頭も、ヴィクトールでいっぱいで。……すごく、胸がいっぱいだよ」
「……ヘンゼルくん、あの……最近、どうしたの」
「でもさ……まだ、罪悪感が残っている。俺は、あのバニーガールみたいにはなれない、まっすぐにヴィクトールのことだけを思ってあんな風に笑うことができない。こんなに、ヴィクトールのこと……、……なのに」
震える声に、ヴィクトールは不思議に思って黙りこむ。ヘンゼルの様子が変だ、となんとなく気付いた。そう、ヘンゼルは、自分のなかに巣食う異常なほどの正義感へ不安を覚えていたのだった。
「もう、俺はおまえのものなんだからいいじゃん、それでもう……なのに、絶対にだめだおまえは悪なんだって、ずっとずっと、心のなかで何かが叫んでいるみたいに……罪悪感が消えない。俺、なんか変だよ……ヴィクトール」
ヘンゼルがヴィクトールに縋りつくように口付ける。助けを求めるように抱きついて、唇をこすりつけるようにしてキスをする。
「ヴィクトール……今夜も、これからも……昨日みたいに抱いてよ。ほんとうに、俺を壊しちゃうくらい。何もかも、麻痺しちゃうくらい……」
あまりにも弱々しく虚ろ気なその言葉は、どこか歪んでいるようでどこまでも純粋なものだった。ヘンゼルの恐怖がどこからきているのか、ヴィクトールにははっきりとはわからない。それでも、苦しんでいるヘンゼルのことはみていられなかった。ヴィクトールはヘンゼルを強く抱きしめ、……そして、これからのことへの不安を募らせていった。
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