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「あっ……」 「兄さん……どう触られるのが一番好き? 僕にも教えてよ」 「い、……ぁあっ……まって、さわ、……だめ、……」 ――やばい、やばい、俺、変だ。  たしかに胸も最近は感じるようになってきた……けれど、こんなに気持ちよかったっけ。ばしばしと視界に白い火花。ふと気を抜けばイッてしまいそうになる。椛だから……相手が、椛だからだろうか。弟という特別な存在、生まれた時から運命によって繋がっていた人。 「兄さん……」 「あッ――」  ぴ、生ぬるいものが胸にかかる。胸を執拗に弄られて、それだけでイッてしまったのだった。ヘンゼルのものからは精液が弾け、自らの身体にひっかかってしまった。言いようのない喪失感、惨めさ、色んな想いに苛まれヘンゼルは手の甲で顔を隠し、椛の視線から逃れようとした。しかし、椛は構わずその手を掴みヘンゼルの表情を覗こうとする。あっさりと手をどけられてシーツに縫い付けられ、泣きそうな顔を晒すことになってしまったヘンゼルは、ぐっと椛から顔を背けて視線から逃げた。 「兄さんの身体って……思ったよりもエッチだね」 「……う、るさい……」 「恥ずかしがらないで兄さん……こういう兄さん見れて、僕嬉しいんだ」  椛の顔は、ヘンゼルの新たな一面を見ることが出来た喜びにきらきらと輝いていた。顔を真っ赤にして目を閉じて、睫毛を震わせているヘンゼルに、椛は見惚れたようにため息をつく。こうして淑やかにしていれば、こんなにも美しい人だったのか……もっと早く気付けばよかった。口の悪いヘンゼルを思い出し、椛は笑う。 「兄さん……もっと見せて」 「……っ」  思わず声を出してしまいそうになり、ヘンゼルは解放された手で再び口を塞ぐ。椛がヘンゼルの胸に散った精液を、胸全体に手のひらを使って塗りたくったのである。気持ち悪さよりも、爆発しそうな羞恥で頭がいっぱいになった。自分の精液だ。椛に乳首を弄られただけで出してしまった、精液。自分の淫乱さを刻みつけられているようで羞恥心が煽られてしまう。やめろと声を出せば同時に喘ぎ声まで出てしまいそうで、何も言えない。がくがくと震える手で必死に口を塞ぐしかできない。 「んん……っ、ん、」 「兄さん……綺麗、すごい」  椛の言葉にヘンゼルはぎゅっと目を瞑る。椛はあくまで綺麗と言うのか。せめて、もっと罵ってくれればいいのに。淫乱とでも売女とでも言ってくれればいいのに。ヘンゼルはとうとう涙を零し、ふるふると首をふる。  しかし、椛は快楽に喘ぐヘンゼルを、醜いとは思わなかった。椛の世界で一番美しい人。兄であるヘンゼル。たった一人、自分をちゃんと見てくれた人。新しい顔を見せてくれたなら、どんな顔でも嬉しい、たとえ自分で否定していた淫乱な姿であっても。むしろ、昂ぶる、胸が高揚する。なんだろう、この気持ちは。 「兄さん……」 「あ……あ……」  椛が精液に濡れた乳首を口にふくんだ。母乳でも吸うかのようにちゅうちゅうと吸われ、ヘンゼルはたまらず仰け反った。声を我慢するのが辛い、でも聞かれたくない、でも気持ちよくてたまらない…… 「んっ、んっ……!」 「すごい……兄さんの精液はじめて舐めた……不思議だね、なんだか甘く感じる……それに、兄さんの乳首……刺激を与えるとぷっくりしてきて、なんだか可愛い」 「黙って……言うな、お願いだから……」 「なんで……だって本当だよ?」 「あっ……あぁあ……」  再び、吸い上げられる。滔々と甘い声が唇から溢れ出てしまう。感じてしまう自分が情けなく思った。乳首の感触を味わうようにころころと舌で転がされて、ヘンゼルの腰がビクンビクンと跳ねる。泣いても泣いても、椛はやめようとしない。もう、ヘンゼルの中の兄としてのプライドはズタズタになってしまっていた。 (兄さん……すごい、僕の知らない兄さん、綺麗……)  椛は夢中になってヘンゼルの胸をしゃぶってた。どきどきする。次第に大きくなってゆく甘い声に、ヘンゼルの体を開いていっているような錯覚を覚える。 「も……やだ、……むね、ばっかり……あっ、」 「え、違うところ、もっと好きなの?」 「ちが……そういう意味じゃ……」 「どこ? 教えて、兄さん」 「言うか……だれが、そんな……」 「ここ?」 「ひゃ、あ、ぁッ!」  突然、指を後孔に挿れられる。急に強烈な刺激に襲われ、ヘンゼルはあられもない声を出してしまった。指を一本、挿れただけでイク寸前まで感じてしまったヘンゼルに、椛はじっとりと不機嫌な眼差しを送る。 「ここも……いっぱい可愛がられたの? 僕の知らない人に」 「や、やめ……!」 「ここで知らない男のペニス咥えたの? 兄さん、精液注がれたの? 何回?」  胸よりも敏感なところ、みつけた……。椛は嬉しさに震えると同時に、知らない男に犯されているヘンゼルを想像してしまって気分が悪くなった。  この白くて綺麗な太ももを掴まれて、無理やり脚を大きく開かれて……こんなに綺麗な穴に醜い欲望の塊をぶち込まれ、細い腰が砕けるほどに突き上げられる……腹立たしい。 「な、椛……」  冷たい目で見下ろされながら片足をぐっと腹まで押し倒されて、後孔が丸見えの状態にされて、ヘンゼルは流石に抵抗しようとした。しかし、動こうとした時に、中にはいった指に前立腺を擦られ力が抜けてしまう。 「兄さん……今、兄さんの中にはいっているもの、なに?」 「……なぎの、ゆび……」 「そう! 僕の指。これ、僕の指だよ……感じる?」 「……ッ! あっ、……ゃ、!」  忘れてしまえ。ほかの男のことなんて。燃え上がるようなどす黒い嫉妬が、椛の胸の中を埋め尽くす。この兄の感じている顔を、自分だけのものにしたい。そして、もっともっと感じて欲しい。綺麗、綺麗だ、兄さん……。  この感情を、なんという。今まで生きていて、初めてのこの想い。ただの兄に抱くものではないということは、椛も気付いていた。 「あっ、あっ、なぎ、ッ……なぎ、やめ……」  名前を呼ばれれば体の芯が熱くなる。そう、これは――狂おしいほどに純粋な、恋。 「兄さん……!」 「あぁ……!」  みち、指よりもずっと太いものがはいってくる。それが椛のペニスであると理解したヘンゼルは、喪失感に襲われる。とうとう弟にいれられてしまった、抱かれてしまう。じわっ、と熱が下腹部から一気に広がってゆき、勝手に身体が仰け反ってしまう。先端が入ると、窮屈さは抜けて、ソレは一気に中に入り込み奥を貫いた。 「はぁ……ッう、!」  ヘンゼルの身体は大きく跳ね上がり、出したばかりのペニスから、また、切なげに精液が飛び出す。  なんとも哀れな光景だった。泣き声混じりの吐息、大きくはだけたシャツ、精液に濡れた胸、弄られすぎて腫れ上がった乳首、開かれた脚……絶景だった。ショックで大人しくなってしまった口がまた、愛おしい。 「すごい……兄さん、すごい……」 「……、ぁ、」 「なか、すごくあったかい……それにぴくぴく動いていて気持ちいい……兄さん、すごいよ」 「うごかな……ぁっ……あ……!」  椛がヘンゼルに覆いかぶさって、キスをする。その拍子にまた深くはいってしまって、ヘンゼルは声をあげてしまう。拙いながらも激しいキスで責められて、ヘンゼルはされるがままになるしかなかった。舌で咥内を引っ掻き回され、息をつく間も与えてくれない。快楽でまともに呼吸ができないヘンゼルは、苦しくて椛から逃げるように顔を逸そうとするが、顔を掴まれそれは阻まれる。唇から唾液が零れてしまうがそんなことはどうでもいい。酸欠で頭のなかが真っ白になって、なにも考えられない。

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