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夢と現実の狭間に体を捩じ込まれているかのような心地だ。意識がふわふわとして定まらない。ヴィクトールに体を洗ってもらって、今、ベッドの上に横になっていることはわかるけど……ぼんやりとしてなにも考えられない。
「ヘンゼルくん、……大丈夫?」
「……うん。……それより、俺、ちゃんとドールになれるの?」
「……ちょっと今回は相手が特殊だったし、……まさかヘンゼルくんがああなるとは思っていなかったから……別のドールともう一回テストしてからね」
「……そう」
そうか、ヴィクトールにも椛に抱かれているところ見られていたんだった。
ベッドの端に座るヴィクトールを、ヘンゼルはチラリと見上げる。心配そうに見下ろしているヴィクトールと目があって、やっぱり、安心した。
「ヴィクトール……俺、いつもと違っていた?」
「……違っていたね」
「……なんで俺、椛に抱かれてあんなになったんだろ……」
声が、震えている。ヘンゼルはあの時の自分を思い出して恐ろしくなったのだった。捨て身の想いで助けだして一緒にここを出ようと思っているくらいの弟ではあるが、性的な目では一切みていない。そういう対象してみているのは、一人だけ。それなのにあのときは、胸のなかは抱かれる歓びでいっぱいになっていた。
「……飛んでいきそう」
「え……?」
「体も、心も、見えない糸に操られているみたいに……俺の意思に反して動く。そのうち、俺っていう存在がなくなるのかもしれない」
「……ヘンゼルくん?」
ヘンゼルはそろそろと手を伸ばし、ヴィクトールのものに重ねた。泣きそうな目で見つめられて、ヘンゼルの言っている言葉の意味は理解できないのに、ヴィクトールは釣られて泣いてしまいそうになった。
重ねた手を反転させて、指を絡ませる。ヘンゼルが繋がった手をぼんやりと眺めている。心ここにあらずといった様子のヘンゼルにヴィクトールは不安を覚えてささやきかける。
「……ゆっくり休んだほうがいい。きっと一晩寝れば気分も晴れるよ。きっと弟が相手だったからショックを受けただけだよ」
「ちがう……」
「え……」
ヘンゼルがゆらりと体を起こす。ヴィクトールはただならぬ様子のヘンゼルに、ギクリと心臓を跳ねさせた。ヘンゼルはそんなヴィクトールに弱々しく掴みかかり、絞りだすような声で訴える。
「身体だけじゃない……このまま、心まで椛に引きずられていくかもしれない……俺は、たしかに椛のことを弟として大事に思っているけど、そういう目ではみたくない……俺達は兄弟だ、間違っているから……だめなんだ、……違う、俺は抱かれるなら、おまえだけがいいって……」
「ヘンゼルくん、落ち着いて……そう思っているなら大丈夫だから……」
「なあ……悪いのかよ……俺が、椛ヒロインじゃなくておまえ悪役を好きになっちゃいけないのかよ……!」
「……?」
ヘンゼルは一体何に苛まれている、何がヘンゼルを引っ張っている。ヴィクトールはヘンゼルの言葉に違和感を覚え、慰めの言葉を言うことができなかった。ぽろぽろと涙を流し始めたヘンゼルは、怯えるようにヴィクトールにしがみつく。
「……もう、とまらないから……俺が、おまえと一緒にいたいっていう気持ちがとまらないから……堕ちてもいいって、そうやっとの思いで決意したのに……それなのに、椛に抱かれて、そんな想いは間違っているってまた、引っ張り戻されるようで……」
「……、」
「……俺の想いをちゃんとみて……俺は……俺は……」
言葉の尾が小さくなってゆく。自分自身がわからなくなって、言っている言葉にも自信がなくなってしまったのだろう。嗚咽が止むまでしばらく黙りこんでしまう。時計の針の音がやけに響いて、心臓の鼓動と勝手に共鳴してしまうようで、ヴィクトールは居心地が悪く思った。ヘンゼルが泣き止んで、気分も落ち着いたら抱きしめて寝てあげよう、変に突っ込んで余計に事を難しくしてしまうよりもそっちがいいだろう……ヴィクトールがそう思っていると。
「ヴィクトール……」
小さく、掠れ声でヘンゼルが呟く。
「……抱いて……ヴィクトールのこと、感じなきゃ……ヴィクトール……犯して、めちゃくちゃにイキ狂わせて……俺のこと……おまえのところに繋ぎ止めて」
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