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「……おい、みろよ、マックイーン中佐だ!」
「うわああマジだ! 相変わらずきれ……かっこいいな!」
基地内の食堂。ウィルが姿を現した瞬間、食堂内がざわめいた。皆チラチラとウィルをみては、こそこそと声を潜めて色めき立つ。
「マックイーン中佐って……あの方ですよね。なんでこんなに騒がれているんです……?」
「おい馬鹿新人! しらねえのかよ! あの歳で中佐だぜ? 士官学校も座学と実技両方でトップの成績をおさめて卒業しているんだ……憧れるのもしょうがねえだろ」
「それに美人だしな!」
「そうそう……士官学校時代……男に囲まれて飢えた候補生たちに、何回も告白されたとか……って、そういうことはいいんだよ! 顔じゃない、中身だろかっこいいのは!」
「とか言っておまえがマックイーン中佐の写真こっそり持ってるの知ってるぞ」
「ぎゃあ! なんでそれを!」
「はあ……」
集まる視線を無視するようにウィルは席につく。……正直なところ、この扱いに慣れ始めていた。異常と言えるくらいの昇進スピードのために憧れられるだけではなく、色の混じった目で見られること。容姿について褒められることは多々あったが、ここまで大勢の人にそんな目でみられる意味がわからない。少しおかしいとは思っていたが……もう、慣れた。女に飢えているのだろうと思うことにしていた。
席についた瞬間、すかさず一人の青年がウィルの前にたつ。誰かと目が合うのが嫌でうつむきがちでいたが、その声をきいてウィルはほっとしたように顔をあげた。
「こんにちは、マックイーン中佐! ご一緒してもいいですか?」
「ああ……どうぞ。……そちらは?」
「あ、ストークス軍曹です。彼も是非一緒に」
「よ、よよよよろしくお願いします! ご一緒させていただきます!」
「はは……どうぞ」
ガチガチに固まるストークスを連れてきたのは、ウェンライト大尉。ウィルと歳も近く、士官学校時代からの知り合いだった。
「どうしたんです? 表情が優れませんね」
「ああ……いや、大丈夫」
「そうですか……なら、いいんですけど」
オーランドのことについて、心の整理がつかない。いつの日か、あの入江でもう一度彼と歌いたいと思っていたのに。その彼が、人殺しを。記憶の中できらきらと輝いていた彼が……。でも、その迷いを部下に悟られるわけにはいかなかった。自分は中佐という立場。私情を仕事に介入させるわけにはいかない。
「……でも、随分と、思い悩んでいるみたいですね。どうですか、今度、お酒でも」
「ああ……そうだな。暇な日は?」
「えっと……今日とか」
「急だな。まあ、でも私も空いているから。仕事が終わったら一緒に帰ろうか」
「はい。ああ、ストークス軍曹、よければ一緒に」
「ええっ!? お、俺……じゃない、私もですか!? お、恐れ多くて……!」
「いいよ、空いていれば是非」
「あ、ありがたき幸せ!」
びしりと敬礼をしたストークスをみて、ウィルはふっと吹き出した。そして緊張に顔を紅潮させるストークスを横目に、明後日の予定をメモするべく、胸元から手帳を取り出す。
「マックイーン中佐、きちんとしていますね。細かい予定も全部手帳に書いている」
「いや……癖になっただけで」
「あ、っていうか……いつも思っていたんですけど、それ、何ですか? 全ての日に書いてある……時刻?」
机に置かれた手帳が視界に入ったウェンライトが、あるところを指し示す。一日ずつ、一分二分ほどずらしながら書いてある何かの時刻。手帳を覗きこむのは野暮だとは思ったが気になってしまったのだ。しかし、ウィルは特に嫌がる顔もせずに、笑う。
「日没の時刻だよ」
ウィルの答えに、ウェンライトは一瞬ハテナを顔に浮かべたが、やがて納得したように頷く。
「ああ、なるほど。それ、マックイーン中佐には必要ですね」
「?」
一人だけ置いてけぼりのストークスは、おろおろとしている。この答えの意味は、ある程度ウィルと付き合いのある者にしかわからなかった。
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