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船員たちが起きてきたところで、オーランドとウィルは船長室へ戻った。この曲が完成して、次の島についたら命を絶とうと、ウィルは心のなかで決意していた。だから、残された時間はオーランドと幸せな時間を過ごしたい、そう思った。一緒にいればいるほどに彼は狂ってしまうけれど、自分が死んでしまえばリセットされる。せめてもの、ウィルのわがままだった。
「ウィル、今日は機嫌がいいな。どうした?」
「ん……心の整理がついたのかな」
「心の整理?」
「俺……すごく、オーランドのこと愛しているみたい」
彼のために死のう。そう決めた瞬間に、不思議と今まで心を支配していた絶望感が薄れていった。こんなにも自分はオーランドを愛していたのかという自覚がそうさせたのかもしれない。
「ん……」
唇を重ねる。じわりと胸の中に愛おしさが広がってゆく。髪を大きな手のひらでくしゃくしゃとかき混ぜられながら舌を交えると、自分が彼のものになったような感じがして、すごく気持ちよかった。自然とこぼれてしまう甘い声が、自分の耳の中にも入ってくる。まったく羞恥心がないわけじゃない。でも、オーランドと幸せを共有しているのだという気分を、高めたい。
「あ……ふ、」
キスは何度もしているのに、するたびにどきどきする。胸がぎゅっと締め付けられて、くらくらとしてくる。思い返せば、生涯オーランドに恋をしていた。ずっとずっと、長い間。そんな相手と結ばれて、こんなにも愛されているのだから、仕方のないことかもしれない。
「あっ……ん、ん!」
「……また、キスだけでイッたのかウィル……どこまでも可愛いなおまえは……」
「……だめ? イきやすいの……俺、オーランドに触られたらすぐに身体が熱くなって……すぐ、イっちゃうから……ゆるして」
「やらしい身体だな。ほら、もっと愛してやるよ……俺の前でだったら、何度でも何度でもイけ。もっとやらしくて可愛い顔、みせてくれよ」
「うん……」
オーランドは笑ってみせると、ウィルをうつぶせに押し倒した。ああ、今日はまずは後ろからされるな……ウィルは察する。自分から抱きつけないのは少し不満な体位だが、少し恥ずかしい自分の格好にオーランドが欲情してくれて、激しい欲をぶつけてくれるのは、好きだ。
「あ、あぁあ……」
背中に、オーランドの舌が這う。ゾクゾクと電流がはしって、ウィルは仰け反った。シーツと身体の間に腕を差し入れられてぎゅっと抱きしめられながらそうされて、頭がふわふわとしてくる。シーツを掻くように握りしめて、ぐっとうつむいて、すぐにイキそうになってしまうのをなんとか耐える。
「綺麗な、背中だ」
「んっ……」
「もっといやらしく身体をくねらせろ……」
「は、ぁ……」
オーランドの愛撫は、すごくどきどきする。身体の隅々を堪能するように、じっとりと熱を這わせるのだ。甘いというよりも官能的で、すごくいやらしい気持ちになってしまう。ちゅ、と音をたてながら肌を吸われ、ぴくんと身体が跳ね上がる。自分よりも大きな体のオーランドにのしかかられながらそうされていると、たまらない幸福感にとらわれる。
「腰をあげて」
「あ……」
ぐい、と腰をもちあげられた。恥ずかしい、真っ先にそう思って、ウィルは枕に顔を埋める。
「ウィル……すげえな。身体が俺のこと、好きって言ってる」
「ん、……」
「穴……触ってないのに、欲しいってひくひくしてるぜ」
「……言うな……」
オーランドの笑う声が聞こえると、かあっと顔が熱くなった。もうすっかりそこは、オーランドの熱を受け入れるための器官に成り果てた。オーランドを感じると、疼くようになってしまう。自分でもそこがひくついている自覚はあったから、何も言い返せなかった。
「可愛いな……ウィルのここ」
「あっ……撫で、な……」
「こうやってしっかり閉じててちょっと前のおまえみたいにお堅いのに」
「ふ、ぁ……」
「こうやって俺の指をすんなり受け入れて、嬉しそうになかぴくぴくさせて」
「ん、ぁ……ぁ」
「ちょっとなか掻き回しただけで、全身とろとろになっちまう……」
「ぁあ……だ、め……」
くちゅくちゅと水音が響く。腰が砕けてきて、オーランドの言うとおり身体が蕩けてきた。丁寧にほぐされているその間は、すごく焦らされているような気分になる。指だけでイッてしまうのがもったいないような気がして我慢はするのに、気持ちいいから我慢できない。挿れて、挿れて……はやく大きいのちょうだい……なんて、痴女みたいなことを考えてしまう自分に酔いそうになる。
「そろそろ……欲しいか、ウィル」
「欲しい……オーランド、欲しい……」
「もっと可愛くねだってみろ……」
「挿れて、お願い……オーランドの、俺のなかに、挿れて……」
「よし……いい子だ、ウィル」
腰を掴まれ、熱をあてがわれた。そのままはいってきたそれに、全身から歓びが湧き上がる。
「ん……」
ぎゅっと抱きしめられる。オーランドが名前を呼びながら、何度も首筋にキスを落としてくる。もうすっかり慣れた行為のはずなのに、どきどきが止まらない。愛されているのだと、そう思うときゅんとしてしまう。しばらく抽挿はなく、そうしていた。ゆっくりと、二人で溶け合っていくようなこの静かな交わりが、心地よかった。
「あ……」
「気持ちいい?」
「うん……あ、……あっ、」
ゆっくりと、オーランドが腰を動かす。緩やかな快楽がじわじわと下から這い上がってきて、身体が溶けてしまいそうになる。
こうして、二人で狭い部屋に閉じこもって、周りから自分たちを隔てて。そして、延々とセックスをしているのは少しおかしいと、わかっていた。でも、幸せでしょうがないんだ。大好きな人と身体を交えて、愛していると囁き合って。甘い時間を過ごすのが、どうしようもなく好きだった。
「あ、ん……オーランド……あっ、あぁ……」
本当は、永遠にこうしていたかった。でも、叶わない。彼の幸せのために死ぬことへの恐れはなくなってきたけれど、もっと一緒にいたかったという想いは正直残っている。ずっとずっと、愛し合って生きていたかった。永遠の彼の一番でいたかった。
「あ、あッ……!」
次第に激しくなってゆくピストンに、身体が揺さぶられる。名前を呼ばれながらそうされていると、強く自分が求められている気がして、胸がいっぱいになった。
「オーランド……すき、……あっ、……すき、すき……!」
消えるのか。もう少しで、彼の中から自分は消える。こんなにお互いを強く激しく求めあっているのに、それでも消えてしまう。そう思うと、今から何度彼に「好き」と伝えられるのかとか、彼の名前を呼べるのかとか、そんなことを考えてしまう。後悔しないくらいの回数って何回なんだろう。
「ウィル……愛してる、……ウィル、」
ウィルの記憶からこれから自分から消えるのだと知らないオーランドも、必死にウィルの身体を貪った。それだけで、ウィルは嬉しいと思った。今、彼のなかは自分でいっぱいなんだ、そう思えたから。
「オーランド……ずっと、……俺を、愛していて……」
「あたりまえだろ、馬鹿……!」
「うん、……」
当然のように、貴方は言う。ありがとう、そう心のなかで返事をした。もしも自分が人間だったなら永遠に愛し合えたのだという、IFの未来を夢見ることができる、それだけできっと、幸せなのだと。そう思えた。
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