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「まあどうなされたのですか、椛さん!」
「え……」
「箸が進んでませんよ」
「……すみません、食欲なくて」
食卓について朝食をとりはじめたものの、椛は夢の衝撃が未だに抜けておらず、食事が喉を通らなかった。それを見かねて注意してきたのが、母の千代。
「いけません、宇都木 家の男子がそんなことでは! 貴方は今後日本国を担う立派な人にならなければいけないんですからね!」
「は、はい……わかっています」
椛の家――宇都木家は、平安の時代から続く祓い屋の家系であり、明治と元号が変わった現在は財閥として名を馳せている。その祓いの力というものを今の宇都木家の者は継いでいないが、群青と紅は宇都木家に代々伝わる式神であった。はっきりいって召使に全く向いていない二人がその職についているのには、そういう理由があった。
「全く……椛さん、貴方は自分が宇都木家の男であるということを自覚しているのですか? 学業は? ちゃんと成績は一番をとっているんでしょうね」
「はい……大丈夫です」
宇都木家、宇都木家……その名前を何度も浴びせられながら、椛は食事を口の中にかきこむ。ああ、この煮物ちょっと味が薄いな、と思うと同時にまた群青のことが頭に浮かんできて、千代の話は耳に入ってこなくなった。
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