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馬車に乗って、学校に向かう。椛はぼんやりと、隣に座る群青を見つめていた。文明開化の影響で、群青の服は西洋風。髪の色が手伝って、いやに似合っている。街を歩けば娘たちが頬を赤らめながら彼を見つめてくるほどに。
「……群青」
「なんだ」
「僕は、群青は着物を着ていたほうが好きかな」
「……ふうん」
「……浅縹色の」
ぴくり、と群青の眉が動く。じろりと椛を見つめたその瞳には、どこか疑いの色。椛はその眼差しにぎょっとした。特に意味があって言ったわけではないが、浅縹色の着物は、夢の中で群青が着ていたものだ。
「……俺が昔着ていた着物の色だ」
「そうなん……わっ、」
突然、群青が椛の腕を掴んできた。そして、ぐい、と顔を近づけてくる。
「な、なに……んっ、」
群青はそのまま椛の首元に顔をうずめ、匂いを嗅ぐような仕草をした。群青は、犬神であるらしい。匂いというものにやたらと敏感で綺麗好き。変な臭いがするなどと不名誉にもほどがある文句を言われるのかと思って、椛はびくびくとしていた。
「ひっ、」
群青は顔をあげたかと思うと、するりと手のひらを椛の頬にあてる。夢のなかで口付けの直前にしたあの仕草と同じ。群青は綺麗な薄い青色の瞳で、じっと椛を見つめてきた。その表情は、どこか切なげで。思わず椛はかあっと顔を赤らめてしまう。
「おまえ……」
「な、なんだよっ……」
「……最悪」
「……んなっ、」
――失礼極まりない!
突然人の匂いを嗅いでその感想。猛烈に腹がたったが、なんとか椛は怒りをこらえる。本当に何を考えているのかわからない、無愛想。椛のなかの群青への印象は悪くなってゆくばかり。
「……宇都木の臭いが強すぎる」
「……?」
窓の外を見つめながら呟いた群青の言葉の意味は、椛にはわからなかった。ただ、わかりたいとも思わない。椛は群青と距離をとるように座り直して、学校につくまでずっと、顔を背けたままだった。
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