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***  学校が終わって校舎をでると、雨が降っていた。椛が校門の前まで走ってゆくと、想像通り、群青が傘をさして待っていた。そばに、馬車がとまっている。  ――しかし、椛は群青のもとへ行く気になれなかった。彼を無視して走り抜こうとすると、腕を掴まれる。 「おい……なんのつもりだ」 「……離せ。一人で帰るから、群青は帰って」 「は? なにふざけたこと行っているんだ」  声に怒りをあらわにした群青に、椛も苛立った。群青はすぐに自分に対して怒る……というか、常に苛立ちを覚えている。自分が宇都木の人間だから。彼が宇都木家の人間を嫌っているから。 「……僕のことなんてどうでもいいくせに、律儀に迎えになってこなくていいんだよ。どうせ嫌いなんでしょう、僕のこと。宇都木の人間だから」 「……めんどくせえ事言ってないではやく馬車に乗れ」 「うるさい、こうやって……宇都木だから送迎があって、宇都木だから付き人がいて、宇都木だからちゃんとした大人にならなくちゃいけなくて……宇都木だから人の輪からはずれて……僕自身をちゃんと見てくれる人は、どこにもいない! みんなうるさいんだよ、僕は宇都木じゃない、椛だ!」  雨にうたれ、そう叫んだ椛を――群青はなんとも言えない表情で見つめていた。しばらくじっと黙っていたが、やがて舌打ちをすると椛を引き寄せて自分の傘の中にいれる。 「……雨に濡れる」  頬に伝った雨の雫を、群青が指でぬぐった。その仕草が……あまりにも優しかったから、椛は固まってしまう。 「乗れ。さっさと帰るぞ。くだらないこと言ってるな、俺だって暇じゃないんだ」  ぐ、と腕を引かれて、馬車に押し込められた。傘をたたんでいる群青の横顔は……ひどく煩わしそうで、苛立っている様子だった。やっぱり……彼が何を考えているのか、わからない。

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