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「――っ!」
「……椛様、お目覚めですか」
……また、群青の夢だ。現実の群青とは全く違う、優しい群青の夢。
椛が目を覚ますと紅が心配そうに顔を覗き込んでいた。彼女はいつものように微笑んで、柔らかい声で話しかけてくる。
「これから、夕食ですよ。降りてこれますか?」
「……いらない」
「具合悪いんですか……? この部屋までお食事運んできましょうか?」
「だから……いらないってば! 僕に構うな、放っておいてよ! うるさいんだよ!」
叫んでから、しまったと思った。紅が……少しだけ、傷付いたような顔をしていたのだ。
まず紅がせっかく準備してくれていた饅頭をいらないと言ってしまったことを謝らないと……それはわかっていたのに。なぜ、余計に傷付けることを言ってしまったのだろう。
「……ごめんなさい、椛様。ゆっくりお体を休めてくださいね。簡単な食事だけでも持ってきますから食べてください。何も食べないと、体を壊してしまいますよ」
「……っ」
酷いことを言ってしまったのに、紅は笑っていた。謝らなくちゃ、そう思うのに口が動かない。そうこう悩んでいるうちに紅は部屋からでていってしまった。さみしそうなその背中に、酷い罪悪感を覚えた。
『人を突っぱねといて自分だけかわいがってくださいってか、随分と都合のいいこった』
群青の言葉が蘇る。全くその通りだ。こんな幼稚で酷いことばかり言っている自分をーー誰が愛するというのか。自分をみて欲しいのに、それ相応の態度をとらない。苦しんでいるということに気付いて欲しいなんて、他人に頼り切った願望を抱いて。
バカみたいだ。自分が酷く、醜いと感じる。嫌いだ。自分が嫌い、大嫌い。
「……う、」
あの夢の世界のように。愛されてみたい。あの夢の相手がなぜ群青なのかはわからないけれど。どこか、自分のことを誰も知らない世界へ行って、新しく人生をやり直したい。……幸せに、なりたい。
激しい雨の音がきこえてくる。怖い。頭の中が掻き毟られる。嫌だ。……怖い。
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