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***  何度見ても、群青の夢は慣れない。朝を迎え、何事もなかったように接してくれた紅との会話もぎこちなくなってしまう。学校にいくまでの馬車のなかでは、群青とは一言も会話を交わさなかった。昨夜のこともあってか、恥ずかしかったのもあるのかもしれない。  学校について、しばらくすると教室に先生がはいってくる。まだ若い彼女は、今にも泣き出しそうな顔をしていて、生徒たちはざわめいた。なにかあったのだろうか。そういえば、まだ生徒が全員教室にそろっていない気がするが―― 「みなさん、今朝連絡が入って……原田くんと武井くん、そして宮崎くんが……行方不明になったそうです」  その名前をきいて、椛はドキリとした。その三人はたしか……昨日、「花一匁」の話をしていた生徒たちだ。昨夜は激しい雨だったが――まさかあの噂を実行して、本当に神かくしにあってしまったのだろうか。  椛はその話を全く信じていなかったが、これを偶然と捉えるにはあまりにも同時性を持ちすぎている。  彼らは行ったのだろうか――幸せの世界へ。  行方不明になってしまった彼らを、椛は可哀想だとは思わなかった。むしろ、羨ましいと思った。自分も、「花一匁」を歌えば幸せになれるのだろうか……そう思った。

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