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「群青、そんなところで何をしているの」
「……休憩」
窓からぼんやりと外を眺めていた群青に、紅は声をかけた。彼の隣に立って、紅はため息をつく。
「……ねえ、群青。あなた、そんなに宇都木家のこと嫌い?」
「嫌いだ。むしろなんでおまえがそんなに宇都木家のやつらに気を許しているのかが不思議でならねえ」
「昔は昔、今は今。今の宇都木家の人たちは悪い人じゃないでしょう?」
「……猫は気まぐれでいいな」
「なによ、犬ってそんなに昔のこと根にもつのね? やだやだ」
「あ?」
つん、冷たい声をだした紅を、群青は睨みつける。
「だいたいなんだよ、あの宇都木の奴らへの態度。俺と全然違うじゃねえか。猫かぶりやがって、ずる賢いな」
「何が悪いっていうの、私はあの人たちが好きだからああしているだけよ」
「好きだから本性隠しているのか、俺と話しているときのほうが本当のおまえのくせに」
「好きな人に好かれたいって思ってなにが悪いの」
「嘘の自分を好きになってもらってなにが嬉しいんだか」
「あら」
呆れたように自分に文句を言ってくる群青に、紅は勝ち誇ったように笑ってみせる。訝しげに睨みつけてくる群青ににじり寄って、紅は瞳を眇めてみせた。
「私を好きになってくれた人は、私のことをわかってくれるわ」
「……?」
「人ってすごいのよ。「真実の目」を持っていなくなって、ちゃんと向き合おうとした人のことは、わかっちゃうの。たとえ、その人が仮面をかぶっていたとしても。だから、私は猫を被ることは怖くない。私を好いてくれた人は、私のことをわかってくれるって信じているから。椛様も、千代様も。きっと私のずるいところ、知っている」
は、と息を呑んだ群青の胸に、紅が手を添えた。うつむけば、桜の髪飾りが揺れる。
「貴方も、椛様も。自分のなかを巣食う暗闇にとらわれて……相手の本当の姿に気付けていない。人と向き合うことができないくらい……弱い」
「……ッ」
紅に言われた――「真実の目」を持った彼女は、何を見たというのか。群青は焦りに言葉を失って、何も言い返すことができなかった。弱い……自分の、何が弱いんだ。考えても考えても、群青には答えがみつからない。
「……貴方の抱えた哀しみも憎しみも、決して理解できないわけじゃない。でもいつまでもそれに囚われていたら……貴方は幸せになれない」
「……「真実の目」をもっているからって、俺の全部をわかった気でいるのかよ」
「全部なんてわからない! でも……私は、貴方をみているのが辛い、あの時から……貴方は、苦しそう」
「……うるせえ、だったら見なければいい。おまえが何を言おうと……宇都木の奴らは嫌いだ」
「……っ、あの方は! 貴方のそんな姿をみたくないはずよ! 群青のあの方への想いは、優しいものだったのに……そんな風に変わってしまった貴方は……、」
「――黙れって言ってんだよ!」
群青が紅を突き飛ばす。ふらついた紅をみて、しまったという表情を浮かべたが、群青はそのまま背をむけてどこかへ行ってしまった。残された紅は、ずっと、その背中を見つめていた。座り込んで、顔を覆って、涙を流す。
「……ばか、……群青の、馬鹿!」
揺れた髪飾りが、涙に濡れたように、光る。
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