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夢4
***
「いつも……声、我慢してるでしょう」
「えっ、なんのこと」
「抱いているとき、ずっと手で口を塞いで。顔真っ赤にして声がでないように堪えている。それも色っぽいんですけど……俺、もっと貴方の声を聞きたいです」
群青は僕の着物を脱がしながら、そんなことを言ってきた。声を我慢していることを見抜かれていたのが恥ずかしくて、かっと顔が熱くなる。赤くなっているというのが、自分でもわかるくらい。
「が、我慢なんてしてない……あれが普通だ」
「……気持ち良くないんですか?」
「ち、違う……えっと、その……き、気持ちいいよ……群青、おまえの触り方、優しくて好き、だけど……」
「けど?」
「は、恥ずかしいだろう! あんまり、その……敏感に反応するのって……なんか、僕は男なのに……抱かれて気持ちいいなんて、いやらしい声をだすなんて……はしたない」
しょんぼりとした顔で、まるで自分が下手なのが悪いみたいな言い方をされたら正直に言うしかない。本当は気持ち良くて気持ち良くてたまらないのに、感じすぎていることを悟られると、引かれてしまうのではないかと思って声をだせないのだ。
「はしたないなんて、そんなことないですよ」
でも群青は、そんな僕の不安を否定した。僕の頬を撫で、息のかかる距離で囁く。
「貴方が俺で感じてくれているの……すごく嬉しいんです。どうか……声を聞かせてください」
「……っ、……善処する」
くす、と群青が笑った。
群青が僕の肌に唇をすべらせる。その瞬間から、ぞくぞくする。彼に触れられるだけで僕は、胸がぎゅっと締め付けられると同時にものすごく感じてしまう。彼のことが好きで、好きで……狂おしい想いが身体のなかで暴れ狂うのだ。
「あっ……」
唇から声が漏れると、僕は咄嗟に手で口を塞いでしまった。そうすると、群青はそれに気づいたのか僕の手を掴んで、口からどけてしまう。群青は体を起こすと、僕をじっと見下ろした。
「だめ」
「……ッ」
「声、だしてください。だして。可愛い声を俺に聞かせて」
わずかな嗜虐の色を汲んだ眼差し、それでいて優しい瞳。どきっとした。心臓が急にばくばくとうるさくなりはじめた。
式神のくせに。僕が命令をすれば、群青は絶対に逆らえない。立場は確実に僕のほうが上。でも、情事のときはそれが逆転する。僕が群青に組み伏せられ、彼の甘い愛撫に僕は屈服する。
「あっ……!?」
群青は僕を見つめた状態のまま、手で胸をまさぐりだした。指でぎゅっと乳首を摘ままれて、劈くような快楽が走る。群青によってたくさん可愛がられたそこは、すっかり僕の性感帯となってしまっていた。
「あっ、あぁっ、ん、ッ」
恥ずかしい声が次々とでてきてしまう。手を口に持っていこうとすると、群青が視線で「だめだって言ったでしょう」と言ってくる。僕はそれに従わなければいけない。抱かれているときの僕は、彼に完全に支配される。されたいのだ。
「待っ……声、でる、から……やめ、」
「もっとだして……可愛いですよ」
「あっ、ぁん、ふ、ぁあ……! ゆる、して……群青……恥ずかしい、だめ、声……!」
「恥ずかしがってる貴方も可愛いです」
「そんなっ……ぐんじょ、ぉ……ぁああッ……」
群青は嗜虐的な性癖を持っているわけではなく。ただ単純に、僕を愛していた。だからこそ僕を開きたいのだ、自分に溺れ乱れる僕がみたいのだ。純粋な群青の愛に、僕は揺さぶられる。羞恥と彼への愛の狭間で藻掻くのは酷く苦しく、甘ったるい。
「ふぁ、あっ、あぁん、……だめ、だめ……そこ、もうだめ、ぇ……」
「だめ……イきそうなんですか? じゃあもっと……いじってあげますね」
「だめ、だってば、……んっ、あっ、あっ! ほんと、もう……ふ、ぁ、……んッ!」
「……可愛い」
群青が優しげに微笑んだ。僕はこんなにも淫らな自分を卑しいと思っているのに、群青はそうではないらしい。少し色素の薄い睫毛に飾られた情欲で濡れた瞳が、僕を見下ろしてくる。優しいのに、嗜虐的。ああ、くらくらする。
「ふふ……胸だけでイけましたね」
「言うな……」
「いつもより感じてます?」
「恥ずかしいから、やめて……」
「……そこまで? 俺は貴方がどんどん感じやすくなってきてるの嬉しいけどな。俺のものになっている感じがして」
「……っ」
卑怯な奴……。
腹に散った僕の白濁を群青は指に絡め取る。よしよしと撫でながらそんなことをされると、もう僕はどこまでも群青に堕ちていきたくなった。
「僕が群青のものなんじゃなくて……群青が僕のものなんだからな……」
「形式的にはね」
「なんだよその言い方……」
「ん……?」
群青がふ、と笑う。僕の脚を掴んで、ぐっと倒された。視線で「持ってろ」と命じられて、僕はそれに従う。自分の脚を抱えて、身体を丸めるような体勢をとって……恥ずかしいところを惜しげなく彼にさらけ出す。男なのにこんな格好をさせられて……下されている感が半端じゃない。
「こんなにここ、疼いて……何回ここに俺のものを咥えたんでしたっけ? こんなに俺を求めているのに、貴方は俺のものじゃないって?」
「群青……」
「貴方は身体も心も俺のものです。絶対に、永遠に離さない。貴方は、俺のもの」
「あっ……」
群青が僕のなかをほぐしはじめた。一番感じる部分をわざと外しながら、ぐちゅぐちゅと指で弄り回す。
「あぁあっ……」
「俺、貴方のスキなところ知り尽くしていますよ。だって俺が貴方のこの淫らな身体をつくったようなものですから」
「ぐんじょ、……ふ、ぁあッ」
「俺が抱くたびに貴方は淫らになっていく。俺を求めるようになっていく。俺だけのものになっていく……ねえ、貴方は俺のもの。そうでしょう?」
「あぁああっ……!」
群青が僕の一番弱いところを責め出した。そんな質問を投げながらやるなんて……絶対にわざとだ。僕が群青のものなんだと、思い知らせようとしている。身体で、絶対的な答えを認めさせようとしているのだ。
「あぁ、あっ、ふぁ……ゆるして、ぐんじょう……! そこ、もう、だめ、ぇ……」
「蕩けてますね。俺の指のまれそう。ねえ、言ってみてください。「僕は群青のものだ」って」
「いわなくても、わかってる、んだろ……ん、ぁあっ!」
「聞きたいんです、お願いします」
にこ、と群青が笑った。なんて純粋で意地悪な微笑み。もう胸がきゅんきゅんとしてしまってどうしようもない。答えなんてわかっているくせに、そんなに僕の口から聞きたいのかこの駄犬は。でも、意外と独占欲を持たれているという事実を嬉しいなんて、僕は思っている。
「は、ぁ……ッ、ぼく、は……んんっ……」
「うん」
「ぼく、は……ぁ、あっ、……ぐん、じょうの……ひ、ぁ……も、の……んんっ、」
「……よく言えました」
「ーーひゃ、あ!」
突然、太いものがなかに入ってきた。ご褒美、と言わんばかりに群青が挿入してきたのだ。生意気、なんて思いながらも嬉しくてたまらない。いつもよりも激しい突き上げに、僕はもう、おかしくなってしまいそうだった。
「あぁっ、あっ、ひゃ、あっ、あっ、!」
「『柊』様……呼んで、俺の名前……」
「群青、群青……!」
「柊様……!」
何度も何度も名前を呼んだ。彼の背をキツく抱きしめた。お互いが、お互いのものだ。奥の深いところを思い切り突かれて、いっそ子を孕んでしまいたいなんて思う。群青の子を身体に宿したい。そんなときだけ、男という性別に後悔した。
「イく……ッ、ぐんじょう……!」
急落していくような感覚。僕は群青に抱きしめられながら、絶頂をむかえていた。勝手にびくびくと跳ねる身体を、力強い腕で抱かれると、たまらない幸福感に包まれる。
絶頂をむかえてからの群青の行動は、いつも決まっている。僕の顔全体に愛おしげに口付けを落としながら、「愛している」とひたすらに言ってくる。僕は絶頂の余韻に蝕まれて何も言葉を返すことはできないけど、その時間が一番好きだった。
「柊様……愛しています、柊様……」
ああ、群青。これ以上の幸せがあるだろうか。幸せすぎて涙が溢れて来るなんて。
群青……愛してる、愛してるよ。群青。大好きだ。
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