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「柊様……? 本物?」
部屋の中にいた柊をみた群青は、魂が抜けたようにふらふらと彼に歩み寄った。一歩、一歩……覚束ない足取りで近づいて、彼の直ぐ側にきたところですとんと座り込む。
「本当に……柊様?」
「ああ、群青……会いたかったよ」
「……っ」
震える手で、柊に触れる。手を重ねると――じわりと懐かしい熱が伝わってきた。
ああ、知っている……この温もりを、俺は――
「……会いたかった……柊様……ずっと、ずっと……貴方のことを想っていた、愛していた……」
「群青……泣くな。僕はここにいる。昔――僕が死んだときのことは、今は忘れて。ここでまた会えたんだ。また……愛し合える」
「柊様……いいんですか……また、貴方を愛しても……貴方を救えなかった俺が、貴方を壊した宇都木の側についている俺が……愛しても……!」
「群青……」
涙を流し、懺悔を繰り返し……ただ柊の手を握りしめて震える群青に、柊が掠れ、熱っぽい声で囁く。
「……抱きしめてくれないか」
――群青は、柊の細い体を掻き抱いた。力強く、食らいつくほどの勢いで抱きしめた。柊の吐息に、劣情が煽られる。潤んだ瞳と目があって、群青は衝動を抑えることができなかった。噛み付くような口付けをして、彼を押し倒す。背に腕がまわされて、追憶の彼方へとあった熱が呼び覚まされる。あの日々を。長い長い星霜のなかで最も愛おしかった時。彼との蜜月。取り戻せるのか。また、彼に触れられるのか、彼を愛することができるのか――
群青の中にあった、雑念が全て吹っ飛んだ。彼が死んでから、今まで生きてきた記憶も全てどこかへいった。ただ――目の前の最も愛しい人に触れたいと……その想いで溢れてしまいそうになった。
「お慕い申し上げております……! 愛しています、柊様、愛しています……! 柊様……!」
柊が嬉しそうに微笑んで、その瞳から涙を流すと――積み重ねた彼との思い出が、蘇ってきた。
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