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追憶・桜の花2
***
「……っ」
連れて来られた屋敷は、随分と大きなものであった。偉い人でも住んでいるのかと思うくらい。しかし、この屋敷に住んでいるのは柊一人のようだ。こんなにも広い屋敷に一人で住んでいるのかと、柊への謎は深まるばかりであった。
「……どうした」
「いや……桜が、たくさんあるんだと思って」
「ああ……」
屋敷の庭には、桜の木が何本もたっていた。ちょうど満開の季節だ。どこか寂しい雰囲気が漂うこの屋敷を、鮮やかに彩っている。はらはらと散る桜の花弁が美しい。
「……桜なんて、鬱陶しいだけだ。花弁を片付けるのがめんどくさい」
すたすたと桜に見向きもせずに、柊は屋敷を進んでゆく。体中の傷が傷んで、群青は彼についていくのすらもやっとの思いだった。一つの部屋までたどり着くと、柊は布団を引っ張ってきて、乱暴に敷く。そしてそれをぶっきらぼうに指さした。
「怪我、妖怪はすぐ治るんだろう。治るまでここで大人しく寝てろ」
「あ? お、おい!」
群青が返事をするのも待たずに、柊は部屋を出ていこうとした。流石にもっとかける言葉があるだろうと、群青が咄嗟に彼の手を掴むと、強く振り払われる。
「気安く触るな。薄汚い妖怪が」
「……なんだと」
「……ここから逃げようとしても無駄だからな。契約がとけない限り、おまえは僕の命令には絶対服従。どんなに遠くにいこうと、僕が一声おまえを呼べば、戻ってくるしかない」
「……契約をとくには」
「僕の心臓を破ればいい。……やれるもんならやってみろ。おまえは僕に指一本触れることはできない」
は、と嗤って柊はぴしゃりと襖をしめてしまった。色々と衝撃的すぎて、群青はその場にぺたりと座り込んでしまった。
……本当になんなんだあの男は。この俺にこんな扱いを。
苛々が募って仕方なかったが、ともあれ怪我を治さないことには何も始まらない。調子がよくなったらさっさと柊を殺してこの屋敷を出て行ってやる。そう胸に誓って、群青はすごすごと布団にもぐりこんだ。
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