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追憶・桜の花4
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「……まずい」
早朝に叩きおこれ、飯を作れとどやされて、勝手のわからないままになんとか朝食をつくって言われた言葉が、これだ。人間の暮らしなんてわからないのだから、家事なんてできないのにそんなことを言われてしまっては、群青も腹がたってしまう。
「嫌なら食わなきゃいいじゃないですか。自分でつくってくださいよ」
「食べ物を粗末にしてはいけない。……家事くらいまともにやってみせろ、僕に楽をさせてくれ、駄犬」
「あー! もう! その駄犬はやめろ! 俺の名前は群青だ! 群青!」
柊はちらりと群青を見つめ、何も答えない。余計な会話はしたくない、そんな気持ちが態度からにじみ出ている。無理やり式神にされて、こんな態度をとられて。わけがわからない。
「そんなに妖怪が嫌いなら、人間の召使を雇えばよかったじゃないですか」
「……護衛が必要だとも言っただろう。……それに」
「それに?」
柊が垂れた髪を耳にかける。思わずその仕草に釘付けになってしまえば、彼の左目に泣きぼくろがあるのだとどうでもいいことにも気付いた。憂い気な表情に、妙に色っぽい仕草。本当に、黙っていれば顔はいいのにと、勿体無いなんて思ってしまう。
「……人と接するのは苦手だ。側に置くなら妖怪でいい。ぞんざいに扱っても心が傷まない」
「ああ? ぞんざい? よくもこの俺を」
「もちろん用が無くなればさっさと消えてもらう。妖怪は嫌いだからな。妖怪を皆殺しにしたらおまえも最後に殺す」
「……皆殺しなんて、物騒な」
「……ごちそうさま」
柊はそれ以上群青の言葉に答えようとはしなかった。丁寧に手をあわせて食事を終えると、食器を流しまで持っていく。まずいまずいと言いながらも結局は完食したらしい。……これは性格が悪いというよりは、本当に妖怪が嫌いなだけ? 柊の言動の端々からは、そんなことを感じさせた。「食器洗っておけ」とぶっきらぼうに命令されて、やっぱり苛ついた。
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