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追憶・桜の花17

*** 「う、おお……」  目を覚ました群青は、自分のおかれている状況に苦しんでいた。柊が、自分に抱きついてきている。寝ぼけているのだろう、ときおり群青の胸に頬をすりつけるようにして、縋り付いてきた。 「ああ……やばい、すっげえ幸せ」  昨夜は少し強引すぎただろうか。無理やり抱きしめて怒鳴りつけたのは、やりすぎたと反省している。でも、泣きながら自分の幸せを願ってくれた柊の表情をみたら、いつの間にかあんな風にしていた。  群青はぎゅっと柊を抱きしめる。いつ、もっと先に進めるだろうか。抱きしめ合うだけでもものすごく幸せだけれど、正直もっとこの人が欲しい。もちろん無理に進む気はないが、こうして彼から抱きつかれたりすると、……まあ、ムラっとするわけで。だって、出会ったころはあんなに冷たい態度をとられたのに。それが、こんなに可愛く自分を求めてきたりしたら。 (ああー、絶対幸せにしよ、この人のこと幸せにしたい)  もう、泣かせたりはしない。寂しいなんて思わせない。この人を幸せにしてみせる。 「……ん、」 「あ……柊様……おはようございます」 「……おは、よう……って、あ、」  柊が身動いで、ゆっくりとまぶたをあけた。しばらくぼーっとしていた様子だが、自分が群青に抱きついてたと気付くと勢い良く体を起こす。顔を真っ赤にして、胸を抑えるような仕草をした。 「あれ、柊様……どうしましたか」 「い、いや……布団のなかでこんなに、その……抱き合うのは、ちょっと……」 「あ……だめ、でしたか」 「そうじゃなくて……心臓が、もたないから、……」 「ふふ……柊様、大丈夫ですよ。俺も、胸が苦しい」  柊は決して嫌がっているわけではなくて。それはわかっているから、群青は促したのだ。ぽんぽんと自分の側を叩いて、優しい声でいう。 「……おいで、柊様。俺、柊様のこと、今すごく抱きしめたい」 「……っ」  柊がきゅっと唇を噛む。おずおずと群青まで近づいていって、そしてゆっくりと布団に入り込んだ。 「あっ……」  ぎゅっと全身で抱きしめると、柊は泣き声に近い声をあげる。 「柊様……あの……今日から、ずっと一緒に寝たいんですけど……だめ、ですか」 「えっ……」 「添い寝させてください! お願い!」 「……い、いいよ」 「本当ですか! やった!」  柊が耳を赤くして、群青の胸元に顔を押し付ける。そして背に手を回すと、きゅ、と着物を掴んだ。 「……群青」 「……はい」 「……あったかい」 「……はい!」  ああ、幸せだなあ。柊の温もりを感じながら、群青はしみじみ、そう思った。

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