193 / 353
追憶・桜の花17
***
「う、おお……」
目を覚ました群青は、自分のおかれている状況に苦しんでいた。柊が、自分に抱きついてきている。寝ぼけているのだろう、ときおり群青の胸に頬をすりつけるようにして、縋り付いてきた。
「ああ……やばい、すっげえ幸せ」
昨夜は少し強引すぎただろうか。無理やり抱きしめて怒鳴りつけたのは、やりすぎたと反省している。でも、泣きながら自分の幸せを願ってくれた柊の表情をみたら、いつの間にかあんな風にしていた。
群青はぎゅっと柊を抱きしめる。いつ、もっと先に進めるだろうか。抱きしめ合うだけでもものすごく幸せだけれど、正直もっとこの人が欲しい。もちろん無理に進む気はないが、こうして彼から抱きつかれたりすると、……まあ、ムラっとするわけで。だって、出会ったころはあんなに冷たい態度をとられたのに。それが、こんなに可愛く自分を求めてきたりしたら。
(ああー、絶対幸せにしよ、この人のこと幸せにしたい)
もう、泣かせたりはしない。寂しいなんて思わせない。この人を幸せにしてみせる。
「……ん、」
「あ……柊様……おはようございます」
「……おは、よう……って、あ、」
柊が身動いで、ゆっくりとまぶたをあけた。しばらくぼーっとしていた様子だが、自分が群青に抱きついてたと気付くと勢い良く体を起こす。顔を真っ赤にして、胸を抑えるような仕草をした。
「あれ、柊様……どうしましたか」
「い、いや……布団のなかでこんなに、その……抱き合うのは、ちょっと……」
「あ……だめ、でしたか」
「そうじゃなくて……心臓が、もたないから、……」
「ふふ……柊様、大丈夫ですよ。俺も、胸が苦しい」
柊は決して嫌がっているわけではなくて。それはわかっているから、群青は促したのだ。ぽんぽんと自分の側を叩いて、優しい声でいう。
「……おいで、柊様。俺、柊様のこと、今すごく抱きしめたい」
「……っ」
柊がきゅっと唇を噛む。おずおずと群青まで近づいていって、そしてゆっくりと布団に入り込んだ。
「あっ……」
ぎゅっと全身で抱きしめると、柊は泣き声に近い声をあげる。
「柊様……あの……今日から、ずっと一緒に寝たいんですけど……だめ、ですか」
「えっ……」
「添い寝させてください! お願い!」
「……い、いいよ」
「本当ですか! やった!」
柊が耳を赤くして、群青の胸元に顔を押し付ける。そして背に手を回すと、きゅ、と着物を掴んだ。
「……群青」
「……はい」
「……あったかい」
「……はい!」
ああ、幸せだなあ。柊の温もりを感じながら、群青はしみじみ、そう思った。
ともだちにシェアしよう!