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追憶・桜の花18
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「あ……柊様! みてください! 雪ですよ! 初雪!」
朝日がやけに眩しい……そう思いながら外を見た群青は、庭が銀世界へと変わっていたことに目を輝かせる。真っ白な雪は太陽を反射して、きらきらと輝いていた。群青に引きずられるようにしてそれをみた柊も、目を奪われていた。
「初雪にしては……積もったな」
「そうですね」
群青はじっと雪を眺めている柊の後ろにまわり、抱きしめる。柊はぴくりと肩を揺らしたが、やがて群青に身を委ねるように、ゆっくりと体の力を抜いていった。
「桜の木も……裸になっちゃいましたね」
「うん……」
「初めてここにきたときは、満開の桜が咲いていたのに」
「……もう、季節が巡ったんだな」
「長いようで、短かったようにおもいます」
柊が群青の腕を解いて、向き直った。頬を染めながら、群青を真っ直ぐにみつめる。
「……季節の移り変わりをこんなに綺麗だって思えたのは、群青のおかげだよ」
「はい……」
「……おまえに出逢えて……本当に、よかった」
「……柊様」
群青は柊の頬に手を添えた。ぴく、と柊が震える。かあっと茹だるように、柊の顔は朱に染まってゆく。でも、柊は逃げようとしなかった。群青が顔を近づけると、その濡れた瞳でじっと見つめてきた。
柊が群青の胸に手を添える。そして、目をとじる。
「――……」
「――柊さんー! 柊さん! おはようございますー! 文(ふみ)が届いていますよー! 柊さん!」
「なんでだよ!」
がくっ、と群青は一気に脱力してしまって、その場に座り込んだ。柊は顔を真っ赤にしながら、慌てて外に出て行った。ふらふらと覚束ない足取りで玄関まで向かう柊の背中を、群青は恨めしげに見つめる。
(も、もうちょっとで! もうちょっとで口吸いできたのに! なんでこうもいつも邪魔が入るんだよ! 一回機会を逃すと難しいんだぞ、ちくしょー!)
きっと柊は唇を奪っても、もう嫌がったり怖がったりはしないだろう。だからといって……あんまりにも「したい」とがっつけば、さすがに柊も困ってしまう。今の雰囲気は、全てにおいて完璧だったのに。夏の祭りのときのように、なぜか邪魔が入ってしまった。次に機会が訪れるのはいつだ……そう思うと群青は、憂鬱になるのだった。
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