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追憶・桜の花27

***  真柴が来てから、柊はぼーっとしていることが多くなった。そして、以前に増して群青に甘えてくるようになった。 「柊様……最近、少しぼんやりしていませんか?」 「……そう?」 「あの、柊様のお兄さんが来たときから」  柊がぴくりと身じろいだ。群青の肩に頭を預けるようにして寄り添う彼は、ふ、と目を閉じて囁く。 「……なんとなく、僕の人生について考えていた」 「え……?」 「最初から最後まで、宇都木に操られていたんだなって、気付いたっていうか」 「どういうことです……?」 「ううん、群青は気にしないで」  くい、と柊が群青の着物をひっぱる。そしてじっとみつめてきた。口付けをねだっている、それに気付いた群青は柊の頭を掴んで唇を奪う。 「ん……」  柊が自ら唇を押し当てるようにして、口付けを深めてゆく。群青がそっと目をあけてその表情を覗けば、相変わらず顔は真っ赤だった。恥ずかしさとか、触れられることへの抵抗とか、そういったものを無視して柊が必死に自分を求めてくれている。ぎゅっと胸が締め付けられるような感覚に、群青は泣きそうになった。 「は……」  唇を離すと柊はぐったりと群青にもたれかかる。頬を上気させて、荒い吐息を吐いて、火照った体を沈めている。群青は柊の頭を撫でるようにして、彼を抱きしめてやった。 「群青……」 「はい……」 「……おまえに出逢えて良かった」  柊はそう言って、微笑んだ。

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