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追憶・桜の花27

***  春風が吹く季節となった。特に何事もなく、穏やかな日々を二人は過ごしていた。 「……柊様、本当にいいんですか?」  布団に横たわる柊を群青は見下ろす。たくさんの口付けを落とされてとろとろに蕩けた柊の表情は、群青の劣情を煽る。はだけた胸元に、紅い痕がいくつも散っていて、ひどく妖艶だ。 「うん……群青……しよっか」 「あの、でも……大丈夫ですか?」 「大丈夫。いままで群青が優しくしてくれたおかげで、きっと……」  柊が群青の手をとって、自らの着物の帯に触れさせる。かっ、と群青の体温が上昇した。    ……柊が、とうとう最後まですることを承諾したのだ。  群青はどくどくと高鳴る鼓動に苦しめられながら、柊の着物の帯をほどいてゆく。露わになってゆく白い肌に、今にも噛みつきたい衝動に駆られた。は、と柊の吐息が聞こえてくると、部屋全体が熱っぽくなってゆく。 「群青……」 「……はい」 「どきどきしすぎて、息が苦しい」 「……それは、俺もです……」 「そっか……」  くすくすと柊が笑う。涙声が混じっている。相当緊張しているのだろう。体を纏っているもの全て脱がせたころには、柊は何も話さなくなっていた。  群青も、着物を一気に脱ぐ。ハッと柊が息を呑む声が聞こえた。睫毛を震わせながら、柊は群青の体をみつめている。これから抱かれるのだという緊張が、いやというほどに伝わってきた。 「大丈夫……柊様」  群青は柊に覆いかぶさる。そして、そっと秘部に指を添わせた。 「あっ……!」  群青は柊の唇を覆うように口付ける。安心させるように何度も何度も角度を変えながら、唇を重ね合わせた。柊は群青の背に腕をまわし、ぎゅっと抱きしめる。群青の指がそこをほぐしてゆく感触に、なんとか耐えている様子だった。 「痛く、ないですか?」 「うん……」 「動かしますよ」 「あっ、……ん、」  ゆっくりとなかで指を動かしてやる。痛がる様子はなかったため、少しずつ、動きを激しくしてゆく。 「群青……群青、」  柊はずっと、群青の名を呼んでいた。群青がそれに応えるように口付けをしてやれば、嬉しそうに吐息を零した。なかの群青の指にあわせてびくびくと身体を震わせながら、ついていこうと必死に群青にしがみついている。  愛おしくて、どうにかなってしまいそうだった。出逢ってからもう一年。長い間募らせた恋心に花が咲く。狂おしいほどに彼を求めて、哀しいほどに彼に求められて。ただ体を交えるだけの滑稽な行為が、ここまで優しいものだなんて、初めて知った。 「柊様……」  名前を呼ぶだけで、胸が潰れてしまいそうだった。  しつこいほどに丁寧にほぐして、柊は息を荒げながらも抵抗は一切示さなかった。ずっと、群青と口付けを交わしていたからかもしれない。指の本数を増やしても、幸せそうに涙をそっと流すばかりであった。 「は……は、」 「柊様……苦しくない?」 「平気……」 「……そろそろ、いれるけど……大丈夫?」  柊がふ、と目を開く。快楽でぐずぐずになった顔はあまりにも淫靡で、群青は思わず息を呑んだ。柊は群青とひとつになれることが嬉しくてたまらないのか、ぽろぽろと涙を流して、微かに微笑む。 「うん……いれて……」  ほぐしたそこに、熱をあてがう。そうすれば柊はぴく、と仰け反った。群青が確認するように柊をみつめれば、「いいよ」と言う風にこくりと頷く。 「あ……」 「っ、」 「あぁ……ッ」  なかに、はいってゆく。少しずつ押し進めていき、やがて、最後まではいると群青は倒れこむように柊に抱きついた。 「柊様……」 「ぐん、じょう……」 「好き……柊様……!」  感極まって、思わず群青も泣いてしまった。つられるようにして柊も嗚咽をあげ始め、二人して泣いてしまったものだから、おかしくなって笑い合う。深い口付けをして、幸せを確かめ合って、きつく抱きしめあった。 「柊様……やっと、ひとつになれた」 「うん……」 「柊様、好き……大好き」 「僕も……」  いつも以上に柊の身体が赤く染まっているような気がした。柊は必死に群青を受け入れようとしているからか態度には出さないが、相当緊張しているのだろう。群青をみつめる濡れた瞳は熱に浮かされていて、苦しそうなくらいだった。 「ん……」  ゆっくりと腰を動かす。その瞬間に快楽の波が柊を呑み込んでゆく。口付けを交わしながらゆっくりと突いてやって、そうすれば柊はびくびくと身体を震わせながら甘い蕩けきった声をあげる。 「あっ、あぁあ……あ、ぁ」  呼吸が荒くなってきて、辛そうだった。群青は労るように顔にたくさん口付けを落としてやった。そうしながら抽挿を激しくしてゆくと、結合部がきゅうっと締まりだす。 「は、ぁあッ……あ、ぁ!」  無我夢中だった。優しく、優しく……度々我にかえる。理性が必死になって柊を求める心をおさえつける。溢れ出す想いが、狂ってしまいそうだ。やっとひとつになれて爆発しそうになったそれは、群青のなかで暴れ狂っていた。 「柊様……柊様……!」 「群青……」  お互いに、必死に求めあった。そこにはなにも隔てるものはなくて、強いていうならば相手を想う心がきりきりと胸を締めつけてきて苦しいくらいで、ただただ幸福を貪ることに集中する。熱すぎるくらいの熱、酔いそうなくらいの幸福感。もはや自分が何をしているのかわからなくなってしまうくらい、二人はその行為に没頭していた。 「――……ッ!」  やがて、絶頂に達した。わけがわからなくなるくらいに激しく腰をぶつけて、頭が真っ白になりながら、二人でイってしまった。  ぐったりと、布団に横たわる。意識が朦朧とするなか、本能で求め合うように口付けを交わす。ふわふわと、幸せが満たすなかーーゆっくりと、引きずられるように夢へ堕ちていった。

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