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追憶・桜の花29
***
「柊様! 柊様、きてください!」
縁側の方で、群青が大声で柊を呼んでいた。何事かと思って屋敷の奥からでてきた柊は、目の前に広がる光景に息を呑む。
「あ……」
――庭の桜が、満開になっていた。視界いっぱいに広がる美しい花々、可憐に散る花弁。春風にのって部屋の中まで舞い込んでくる花弁が踊っている。
「……すごい」
柊はふらふらと群青のもとまで近づいていって、全身で春を感じた。暖かい風が体を撫ぜて、眩しい光のなかに桜が咲き乱れる。
「……綺麗ですね、柊様」
「……ああ、」
群青が柊の肩を抱いてきた。
――こんなに、桜って綺麗だったっけ。
ぼんやりと桜を見つめる柊の髪に、群青が口付けを落とす。そして、懐かしそうに言った。
「……一年前は、花弁を片付けるのがめんどくさいから桜は好きじゃないとか言ってましたね」
「……そうだっけ」
……ああ、そうか。群青に出逢ったから……こんなに桜を美しいと思えるのか。
二人は自然と、向き合った。つ、と柊の頬に涙が伝う。群青は切なげに笑って、柊の濡れた頬に手を添える。
「柊様……」
「……、」
「……お慕い申し上げております。ずっと、永遠に」
唇が、重なった。そのとき、強い風が吹き抜けて、ぶわっと桜の花弁が二人を包んだ。
来年も、再来年も、ずっとずっと、二人でこの桜をみたい。お互いに、そう願った。……不確かな、願いだったけれど。
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