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*** ――――― ――― ―― 「僕が……その、柊さんって方の生まれ変わりだって……群青は気付いているんですか?」 「さあ、どやろうね。なんとなくは感づいとるんやないかな」  濡鷺から自分が柊という人物の生まれ変わりであると伝えられた椛は、その恋人であったという群青の今までの態度に疑問を覚えた。恋人の生まれ変わりなら、もっと優しくしてくれてもいいじゃないか。そう思ったのだった。 「群青ん態度が気になるん?」 「はい……宇都木家が嫌いだっていうのは知っていますけど……だからって」 「宇都木はよう千年以上も続いとる家系やからね、血ん臭いもだいぶきつくなっとる。柊ん香りを掻き消すほどに強い宇都木ん臭いが、どうしてもあかんやったんやないかな」  濡鷺は愉しそうにからからと笑っている。恐らく……彼は全てを知っている。椛は濡鷺ににじり寄って、問答を繰り返す。 「どうして群青はそんなに宇都木を嫌っているんですか? その柊さんだって……宇都木家の人間ですよね……?」 「柊んことを散々利用どしたあげく用済みにならはったらポイっと捨とったからやないかなあ……まあ、そないややこしいことばっかり考えへんでさ、」  にこ、と濡鷺は笑った。椛に馬乗りになると、つうっと椛の頬を撫でる。ぞくぞくと甘美な波が全身を貫いて、椛は唇を噛んだ。 「……目ん前ん幸福んことやけを考えよし。もっと花が欲しいやろ?」  群青のことが気になる。今までの態度には、なにかわけがある。それを知ったなら……どこかに一歩、進めそうな気がして。でも……濡鷺に触れられると、快楽だけが欲しくなる。もっと触って欲しい、もっと幸福に漬けて欲しい。抑えきれない欲望が、椛の手を動かした。口付けを乞うように濡鷺を抱き寄せる。ゆらりと瞳を歪めて濡鷺が近づいてきて……唇を重ねてくる。 「……っ」  ずく、と下からとてつもない快楽が這い上がってきた。  ……そして、それと同時に。言いようのない哀しみが、胸のなかに広がった。これは一体。正体のわからない切なさが、ぎりぎりと胸を締め付ける。――心がなぜか、濡鷺に抱かれることを、拒絶する。  ……でも。止められない。体に広がってゆく欲望は、加速していくばかりだった。

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