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追憶・絶望3

***  ――その日は、雨が降っていた。妖怪祓いの依頼を受けていた柊は、一人で依頼主の元へ向かっていた。傘にぼつぼつと雨粒が当たる音が聞こえてくる。昔は苦手だった音。でも、今はそうではない。群青を愛し、そして彼に愛され――雨音と共にやってくる孤独感は身を潜めていた。 「……?」  通りかかった神社の鳥居から、なにやら重い気配を感じる。じりじりと地を這うような、悍ましい気配。石段の上にたっている鳥居を見上げれば、そこから気配が漏れているような気がした。  邪悪な妖怪がいる。柊はそれを悟る。この神社は子供もよく訪れる、人々に馴染みのある神社だ。危険な妖怪がいては人々に害を及ぼすかもしれない。鳥居の様子を見に行こうと、柊は石段を登り始めた。濡れた桜の花びらが散っていて、どこか哀しい雰囲気。 「……」  気配は感じる……しかし、何かがいるというわけではない。石段を登り切った柊は、警戒しながら鳥居に近づいてゆく。 「――久しぶりやね、柊」 「……ッ!?」  突然、すうっと鳥居のなかから男が現れた。もちろん、鳥居の奥には今の今まで誰もいなかった。柊は摩訶不思議が事態に驚き……そして、その男の顔をみてさらに驚く。 「……濡鷺」 「あんたを誘うために妖怪ん気配を垂れ流しにしいやおいやしたんやけど、ちゃんとおこしやすくれたね。柊、達者にしいやおいやした?」  男は――以前自分を襲ってきた妖怪・濡鷺だった。さっと血の気がひく。蛇を操る彼には、敵わない。――群青を呼ばなくては……そう思った瞬間。 「――悪う思うな」  ぐ、と勢い良く手を捕まれ、引っ張られる。そして――あっという間に、鳥居のなかに引きずり込まれてしまった。

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