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追憶・絶望7

*** 「――あっ、あぁッ……!」  ――宇都木家の屋敷がおかしいということに群青が気付くのには、時間がかからなかった。  用心棒というていで群青は屋敷に住むことになったが、妖怪が攻めてくるということもなかったし、雑用を任せられるというわけでもなかった。特に毎日やることもなく、ぼーっとして何もせずに日々が過ぎてゆく。ある日屋敷の廊下を歩いていたときに見た光景が――異常だった。  そこは、少し大きめの部屋。襖が少しだけ開いていて、変な声が漏れていたために覗いてみれば―― 「ふ、ぁあッ、あんっ……!」 「ほら、もっとちゃんとしゃぶれよ」 「ちゃんと中締めろって。ガバガバじゃねえか、この淫乱」  数人の男に、一人の女が輪姦(まわ)されている。ぎょっとして群青が目を凝らして彼女をみてみれば――彼女は、以前柊の屋敷に来た女・紅だった。男たちは服装からすればこの屋敷の使用人だ。使用人に、宇都木家の式神である紅が犯されている。どう考えてもおかしい……そう思ったが、止めようという気はおきない。前に彼女が、複数の男を相手にすることが日常であるという風に言っていたからだ。ここで部外者同然の自分が下手に突っ込めることではない。そして、こうして見る限り……彼女が嫌がっているというわけでもなさそうだ。 「……俺には関係ねえ」  他人のために気をもめるほど……群青の心の傷は癒えていない。このことはすぐに忘れてしまおうと……そう思った。

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