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追憶・絶望8

***  群青が屋敷を訪れて二ヶ月ほど経ったときのことだった。 「ごめんやす~」  屋敷に、誰かがやってきた。真柴がその声を聞くなり慌てて飛び出してゆく。そんな真柴の様子は珍しく、群青も少しだけ気になった。一体誰が来たのだろうと影から覗いたところで――驚きに固まってしまった。 「濡鷺様! どうされましたか、突然」 「大したことではおまへんんや、紅ん様子がみとうて」 「ああ……紅。連れてきますから、どうぞあがってください」 「そないさせてもらうわ」  濡鷺。以前柊を襲った、京の大妖怪だ。彼に対してまるで親しい知り合いかのような対応をとる真柴に、群青は疑問を覚える。なぜ、祓い屋の長男である真柴が彼とそんな関係にあるのか。 「あれ」  真柴に促されて中に入ってきた濡鷺が、ちらりと群青のいるところを見つめる。 「そこにおるんは群青やないかな」  姿は隠していたが、気配でバレてしまったようだ。群青がおずおずと姿を表すと、濡鷺はにっこりと微笑みかけてきた。以前自分に向けてきた視線とは、違う。 「ええ顔つきにならはったやないか。僕とちびっと話をしまへんか」

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