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追憶・瞳2

*** 「あ」  ある日の昼下がり、群青は屋敷の縁側に座っている紅を発見した。ぼーっと庭の桜を見つめている紅は、群青には気付いていないようだ。群青はそっと彼女に後ろから近づくと、隣に腰掛ける。 「あっ……」  紅は群青に気付くなり、立ち上がり逃げてしまおうとした。群青は慌てて手を掴んで、引き止める。 「ちょっと、まて……なんで逃げんだよ」 「こ、こないでください……」 「え、俺のこと嫌い?」 「そ、そうじゃありません……」  紅はきゅ、と唇を噛んで、諦めたように再び座り込む。俯いて、群青と目を合わせないようにしている。 「……貴方の側にいると、私の弱い心がでてきてしまう」 「……ん?」 「妖怪たちのために……お兄様のために……私は自分を犠牲にしようと思ったのに、一度弱音を聞かれてしまった貴方が側にいると……また、決心が揺らいでしまう」 「……弱音もなにも……あたりまえだろ、そんなの嫌に決まっている」 「……簡単に言わないで」  紅はじ、と群青を睨みつけた。彼女の首筋に鬱血痕が散っているのを見つけてしまって、群青は思わず目をそらす。 「嫌だなんて……一度思ってしまったら、辛いのよ! 私はもう、二度と宇都木から離れることはできない、ずっと今のように慰み者として生きなければいけないの! だから……心を殺さないと……私が壊れてしまう」 「でも……!」 「……私に関わるな。同じ妖怪だから、同じ宇都木の式神だから? 関係ないわ、貴方と私は関わりのない存在よ。男の貴方に……女の私の気持ちなんて、わかりやしない」  ぱん、と紅は群青の手を払うと、また立ち上がってどこかへ行ってしまった。

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