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追憶・瞳6
***
「故郷まで旅行にでも行ってこいって、定猷様は何を考えているんだ」
「群青が元気ないからって」
「ああ?」
夏も真っ盛り、外に出ればジリジリと太陽の日差しが降ってくる。故郷に帰れと定猷に外に放りだされた群青と紅は、暑さに根をあげそうになっていた。
「……群青は、定猷様のことはあまり嫌ってないのね」
「好きではねえ」
「宇都木だもんね」
「そうだ」
柊を侮辱した宇都木。たとえ、柊と関わりを持っていなかったとしても、宇都木の血の臭いがするというだけで虫酸が走って群青は宇都木の者を好きにはなれなかった。ただ、定猷は紅を玩具のように扱うという宇都木の因習を取り払ってくれた人物であるため、それなりに好意は持っていた。近付くとどうしても宇都木の臭いがするため完全に好きにはなれなかったが、彼には感謝している。群青が心置き無く死を決意できたのも、彼のおかげである。死ぬ時期を彼の寿命に合わせようとしているのだって、彼の死を看取りたいと思ったからだ。
「宇都木の血を引いているからって、そんなに嫌わなきゃいけない?」
「無理なもんは無理だ。鼻の効かない猫のおまえにはわかんねえだろうけど」
「定猷様は群青の思っているよりもずっと、貴方のことを大事に思ってくれているのに」
「……知らねえ。いい人だとは思うけどそれまでだ」
ふい、とそっぽを向いた群青を追いかけるように紅は群青の前に立った。なんだよ、と群青が紅を見下ろすと、紅がぴ、と群青の胸を指差す。
「ちゃんと目を開かないと、見えるものもみえないわ」
「は? なんのことだよ」
「貴方が辛いのはわかるけど……ずっとそうやって目を閉じていたら、大切なものまで見逃しちゃうわよ」
「……わけわかんねえ」
ぺい、と紅の手を払うと群青は再び歩き出す。紅は一瞬悲しそうな顔をしたが、すぐに群青についてった。
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