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追憶・瞳7

*** 「すっかり荒れてるな……」  柊の屋敷について、群青はその荒れっぷりに気が滅入りそうになった。なんでも、柊の死因が妖怪による惨殺だったため、この屋敷には妖怪の怨念が渦巻いているという噂が広まっており、あのときからずっと空き家らしい。自分と恋人が一緒に過ごした屋敷がそんな有様だと、なんだか虚しくなってしまう。 「畳もぼろぼろ……」 「あー……縁側の木も腐ってるなあ……」  群青が縁側に足をのせて、顔をしかめる。そんな群青の表情を覗き込むように、紅が隣に立った。 「そこの木、桜の木ですか」 「ん、ああ……今は葉桜だな。庭も大荒れだけど」  畳も古くなって、縁側の木も腐って、庭も荒れ果てて。それでも、どこか昔の面影を残す思い出の場所。そういえば、ここで柊を抱きしめながら桜の花をみていた。季節の移り変わりを、いつもここで、二人で感じていた。 「はあ……ああ、カビ臭え」 「……」  群青は葉桜に背を向けると、ぎちぎちと音をたてる畳を踏んで奥へ行ってしまう。紅は慌ててそれを、追いかけた。

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