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追憶・瞳8
***
「……はあー」
群青が向かった先は、寝室だった。もう布団はないが、間取りはあのときのまま。群青は部屋の中央に寝転がって、大の字になる。
「群青……」
「ここでさ……いつも、柊様と愛し合っていた」
群青が部屋に入ると、先に風呂を済ませた柊が布団の上で待っている。近付いてゆくと、少しずつ柊の肌が上気する。抱きしめて……押し倒すと、熱っぽい目で見上げてくる。唇を奪うと、幸せそうに表情を蕩けさせる。
この場所で、いつも。あたりまえのように浸っていた幸福。それはもう、遠い過去。所々腐った畳、埃っぽい空気。それが示している。
「この屋敷に入ってから……柊様の幻覚を何回もみている」
「……」
「あのときを取り戻したいって……あのときに戻りたいって……そんな俺の想いが、幻覚をつくる」
「群青、」
「なあ……死にたいよ。体は時を刻んで、もうあれから百年以上を生きているのに……心は、あの頃に置き去りのまま。俺の全ては、この屋敷に残っている。心が空っぽで生きているのは……苦しい」
紅が、群青の傍らに座った。そして、群青を覗き込む。
「……群青。私が、みえる?」
群青はぼんやりと紅を見上げた。なんて悲しそうな顔をするのだろうと……そう思ったが。
群青は目を閉じて、かすれ声で言った。
「……見えないよ、紅」
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