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追憶・瞳9

*** 「私、お祭りは初めて」 「そっか。あんまり期待すんなよ」  この土地で毎年開かれる、夏の祭り。昔とは自然は変わってきているが、今でも変わらず開かれているらしい。偶然、その時期だったため、群青は紅を連れて行くことにした。  でこぼことした道を、進んでいく。この道の歩きにくさは相変わらずだ。あたりに狐火が現れだして、祭りらしさがでてくる。 「あっ……!」 「!」  紅の悲鳴が聞こえて群青が慌てて振り向くと、彼女がつまずいて転びそうになっているところだった。群青は咄嗟に彼女の手を掴み、自分のもとに引き寄せる。なんとか紅は転ばずにすんだものの……この状況の既視感に、群青はため息をついた。 「……柊様も、ここでつまずいた」 「私、柊様じゃない」 「知ってるけど」 「群青……」  紅が、群青の背に腕をまわした。そして、群青の胸に頬ずりをする。 「……私のこと、みてよ」 「……ごめん、何を言っているのか、」 「……柊様のことを想っているのは知ってる……でも、あのときにずっと囚われていたら、貴方は一生幸せになれない。私をみて。今、貴方の前にいるのは、私よ」 「……いくぞ」 「群青……!」  群青は紅を引き剥がした。そして会場に向かって歩き出す。再び彼女が転ばないように手は繋いでいたが、目を合わせることはなかった。

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