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追憶・瞳12

*** 「わあ、群青……その格好なに?」 「文明開化だとよ」  洋装の群青をみた紅は驚いたように口に手をあてている。じろじろと見つめられることが居心地悪かったのか、群青はしっし、と紅を追い払うように手を振った。しかし紅は構わず群青ににじり寄ってくる。 「群青、背が高いから似あうね」 「あんまりじろじろ見るな」 「女の子が放っておかないね、本当に似合っているよ、かっこいい」 「うるせーな、そういうのいらねえから」  群青はくるりと背を向けてしまう。紅から逃げるように足を一歩踏み出したところで――何かを思い出したように立ち止まった。ポケットに手を突っ込みながら、ちらりと紅をみる。 「これ」 「え?」  群青はついと紅に近づいて、紅の髪をいじった。おろおろとする紅を無視して、ポケットから取り出したものを髪につけてやる。 「お……やっぱり似合うな」 「え? 何? 何つけたの?」 「髪飾り。この服仕立てに外行ったついでに買ってきた」  群青は紅の肩を掴むと、部屋の隅にあった鏡の前まで連れてゆく。鏡に映った自分をみた紅は、はっと目を見開いた。  髪の毛に、きらきらと光る桜の髪飾り。 「紅がさ、なんかくどくど俺は何も見えてないとか言うから。俺ちゃんとおまえのこと見てるから。ちゃんとおまえに一番似合う髪飾り買ってきた」 「そ……そういう意味じゃないんだけど」 「あ? 違うのか?」 「違う。ふふ……でも、群青」  紅が緋色の瞳を細める。長い睫毛が影をつくった。 「ありがとう。宝物にする」 「……!」  にっこりと微笑んだ紅を、群青は抱き寄せる。ぎょっと肩を震わせた紅には気付いていないようだ。 「本当に良く笑うようになったなー……紅」 「……うん」  群青は長い時間、自分と一緒にいたことによって紅が笑えるようになったことが、単に嬉しいだけ。この抱擁に、他意はない。それはわかっていたが、どうしても紅の胸は跳ねてしまう。でも、想いを伝えたところで群青を困らせてしまうだけというのはわかっていたから……紅は態度には出さないようにしていた。だから、せめて――彼の幸せを願う。閉ざされてしまった群青の心がいつか開いてくれますように……紅はそう思って、群青の背に手をまわした。

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