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追憶・瞳14
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「椛……行人様が呼んで……」
椛は成長し、7歳となった。ある日、椛の父である行人に頼まれ椛を部屋まで呼びにいった群青は、部屋にはいると椛が泣いているということに気付く。原因はなんとなく察してした。最近厳しくなった躾のせいだ。この時代になって宇都木家は、財閥として名を知らしめるようになり、後に当主となる椛への教育は厳しいものだった。厳しく叱られるというのも辛かったのだろうが、「宇都木家の長男なのだから」と言われ続けていることがなによりもこたえているらしい。
「群青……!」
群青に気付いた椛が、救いを求めるように振り向く。その表情に、群青はぎょっとした。自分にだけは心を許している……そんな瞳。椛は、柊の生まれ変わりということもあるせいか、群青には好意を示していた。しかし、群青はその眼差しが怖くて仕方ない。群青は、椛を受け入れる自信がなかった。彼が柊の魂を持っていようが……その魂を、分厚い宇都木の臭いが覆っている。柊の魂を持っている椛だ、今後成長したら、自分に恋心を抱くようになるかもしれない――しかし、そのときに自分は彼に触れることが、きっとできない。心に染み付いた宇都木への拒絶が、ふとしたときに暴走して椛を突き放してしまうだろう。どんなに椛に優しくしたいと思っても……たとえ一時的に宇都木への嫌悪感を抑えこんだとしても、いつ爆発してしまうかわからない。
きっと、変に優しくして期待させて、それでいて突然拒絶をしたら……椛は酷く傷つく。
「……みっともなく泣いてんじゃねえよ」
「え……」
自分に抱きついてこようとする椛を、群青は軽く押しのけた。傷ついたような椛の表情に、群青の心は痛む。群青は椛から目を逸らしながら、ハンカチーフで乱暴にその濡れた瞳を拭ってやった。
「……さっさといけ、行人様が待っている」
「……うん」
とぼとぼと、椛は群青を横切って部屋を出て行った。群青はその背をみることなく、その場に立ちすくむ。
「……、」
少しの、我慢。椛も自分の意思で、群青を避けるようになれば。きっと傷つくことはなくなる。それまで、椛のことをはねのけなければ……
「……くそ、」
泣かせたくなんて、ないのに。
こんなにも自分は……弱い。
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