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「……おまえが、死ぬしかないなら……俺も、一緒に死ぬ」
「な、なんで……群青は生きられるのに……逃げられるんだ、逃げてよ……!」
「もう……! ひとりでなんて死なせたりしない……!」
ぐ、と群青が椛を抱く腕に力を込める。がくがくとその体は震えていて、椛は服に群青の血が染みてくるのを感じていた。
「……知ってるか、椛……一緒に死ぬとな、生まれ変わったとき……また、一緒になれるんだ」
「……群青、」
「……ごめんな、椛……本当は今、幸せにしてあげたかった。俺がもっと、早くおまえの叫びに気付いていれば、おまえがここにくることもなかった……ごめん、椛……」
ずる、と群青の指先が椛の頬に触れた。椛の震える瞳に……群青の、微笑みが映る。
「……次こそは、幸せにするから」
そっと、口付けられる。それに、恋情が込められているのかは、わからない。ただ、誓いのような口付けに、椛は声をあげて泣いてしまう。二人で抱き合って、ただ、蟲が近づいてくる音を聞いていた。
「――うッ……!?」
そのとき……何かが破裂するような、鋭い爆発音が聞こえてきた。連続で3発。驚いて二人が顔をあげると、濡鷺が血塗れで胸のあたりを抱えている。濡鷺が攻撃を受けた影響か、蟲たちの動きもぴたりと止まる。
何が起こった……? その場にいるものが、皆思った。じゃり、と土を踏むような音が聞こえて、その方向を見遣れば――
「――ごきげんよう、お兄様」
この世界の出入口の前に立っていたのは、鮮やかな赤い着物を着こなす、さらさらの長い黒髪を靡かせる少女。その手に持っているのは、銃。
「……紅」
その少女は、紅。にっこりと微笑んで、呆然としている椛と群青に、言った。
「声が聞こえたような気がしたので、来ちゃいました」
「ばっ……おまえ、来るなって言ったのに……」
「満身創痍の貴方が言う?」
「う……」
慌てる群青に、紅はふふ、と笑って言った。手に持っている銃は、恐らく行人のものだろう。なぜ、紅がここまできたのかと唖然とする椛に、紅は微笑みかけた。
「椛様。この馬鹿のこと、助けたいって強く想ったでしょ。そして、本当は生きてここから出たいって」
「え……」
「私、聞こえたんです。ずっと……椛様の帰りを待っていたから。貴方の強い想いが、なんとなく聞こえたような気がして」
「……僕の、帰り……」
「みんな、待っているんですよ。行人様も、千代様も。そして私も。みんな、椛様がいなくなってとても心配しています。ね、椛様、帰りましょう。こんなところで死んではいけませんよ」
ぽかんとしている椛を抱きながら、群青は紅をみつめる。紅はそう言っているが……ひとつ、問題が。
「待て……紅。椛は人間だから、そこの出口を抜けたところで現世に戻れない、らしいんだ。あいつの……濡鷺の許可がないとだめだって……」
「ああ、大丈夫。私がいるから」
「え?」
「私は、あのクソ兄貴の魂を少しもらっているから、私がいれば椛様も現世に帰れるわ」
紅は袴を揺らし、一歩、踏み出す。濡鷺と向き合って、銃口を向ける。
「……紅、……この、あばずれが。僕に歯向かうつもりか」
「兄離れってヤツかしら。お兄様。お兄様が私を助けてくれたことは、ちゃんと感謝しているのよ? でも、私……貴方よりも好きになっちゃった殿方がいるので。いつまでもお兄様にべたべたする妹なんかではいるつもりない」
「……ただで返すと思うな、この売女! おまえも、そこの二人も……ここで殺してやる」
「そうね、兄弟喧嘩とでも、いきましょうか」
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