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「椛さん!」
「椛!」
無事に、三人は家に帰ることができた。無事な椛の顔をみるなり、屋敷中の者が騒ぎ出す。「おかえりなさい」と半泣きで駆け寄ってくる使用人たち、そして椛に抱きついてきた、千代と行人。玄関の人口密度が急にあがって、大騒ぎだ。瀕死の群青の姿もまた、騒ぎの原因である。
「心配したんですよ……!」
自分を抱きしめながらぐすぐすと泣きだした千代に、椛はぽかんとしていた。ずっと、「宇都木の子なんだから」と言って自分をみてくれないとばかり思っていた彼女が……なぜ、こんなに泣いているのだろうと、わからなかったのだ。そんな椛をみて、紅は苦笑しながら、椛に言う。
「言ったでしょう。みんな待っているって」
「……僕を、みんなが」
「あたりまえでしょう、この馬鹿息子! 危険な目にあっていたらどうしようって……」
ぎゅ、と自分を強く抱く、その暖かさ。椛は混乱しながらも、なにかがこみ上げてくるような感覚を覚える。鼻の奥がつんとしてきて、気付けば嗚咽をあげて泣いていた。
「……ごめんなさい、お父さん、お母さん……心配かけて、ごめんなさい……!」
「もう家出なんてしないで……!」
「はい……」
わーわーと泣く椛たちを、紅は優しげな眼差しでみつめていた。良かった、一件落着だ……と思ったところで、群青が限界に達してしまったのかばたりと倒れてしまったものだから、また大騒ぎとなってしまった。
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