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*** 「っ、きゃあああ、なにこれ!」  手当てをおえて、包帯でぐるぐる巻きになってベッドに横たわる群青の横で、紅は悲鳴をあげる。その手には、ぼろぼろになった髪飾りが。 「わ、悪ぃ、濡鷺にやられたとき一緒に溶かされちまったみたい」 「あ、あのクソ兄貴……! ああもう……たからものだったのに……」  群青がポケットにいれていたからだろうか、群青が濡鷺の瘴気をあびたときに一緒に少し溶けてしまったらしい。ついでに群青の血も少しついてしまっていて、もはや髪飾りは使い物にならない状態だった。 「新しいの買ってやるからさ……」 「これがいいの! これもらったときすごく嬉しかったから……」 「ほんと、ごめん」  紅はしばらくむー、とふくれていたが、ふ、と笑い出す。焦ったように苦笑いする群青を見下ろして、ぽんぽんと頭をなでてやる。 「……まあ、いいけど。椛様のことを必死に守った証拠だもんね」 「……もうちょっとスマートに守りたかったなあ……かっこわりい」 「かっこわるくなんてないよ。ありがとう、椛様のこと守ってくれて」  そう言って紅は遠くを見るように部屋の扉を顧みる。そろそろ椛がくるかなあ、なんて思ったのだった。椛は両親に泣きつかれた後、今度は行人に家出をした件について叱られているのだった。心配したからこそのものだ。部屋に連れて行かれる椛を、紅はあちゃー、と言いながら見送っていた。 「……はいっていい?」  紅の読みはあたって、こんこんとノックが聞こえてきた。行人に開放されたようだ。椛が来たらしい。群青の代わりに紅が返事をすると、扉が控えめに開いて、椛がおずおずと部屋に入ってきた。 「……私、出てるね」  紅は立ち上がると、扉に向かって歩き出す。え、と戸惑う椛の頭を撫でて、「がんばって」と小さく囁くと、そのまま出て行ってしまった。  残された椛は、気まずそうな顔をしながら群青に近づいてゆく。そして、先程まで紅が座っていた椅子にすとんと座り込むと、居心地悪そうにそわそわとしだした。 「あ、あの……僕、さっきお父さんに、すごく怒られて、」 「うん」 「……えっと……でも、なんか……最後、すごく泣いていて、……」 「……うん」 「……僕、なにか勘違いしていたかな、って……」  椛の目はよく見ると、少し腫れている。それに気付いた群青は、ふ、と笑うとカーテンの揺れる窓をみながら、言った。 「……見えるようになったか」 「え……」 「自分の周りの人たちのこと……ちゃんと」 「……少し」  群青の瞳が、ゆっくりと動いて椛をみる。体の痛みのせいで気だるげなその瞳に、椛は、どこかどきりとしてしまった。 「……なら、良かったんじゃねえの」  群青が、微笑んだ。そうすると、椛の目からぼたぼたと涙が溢れてくる。声をあげて泣いて、そうすれば群青が体を起こして椛を抱きしめた。あやすようにぽんぽんと背中を軽く叩いてやる。 「……おまえも、ちょっと大人になったわけだ」   「……そ、そうかな……」 「……俺も、がんばんないと」  群青は椛の首元に顔をうずめて、目をとじる。やっぱりこの臭い苦手だなあ、なんて思って椛を抱く腕に、無理をして力を込めた。

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