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「おっはようございますー! 椛様! 起きてくださーい!」
「う、……お、重い!」
――あれから、一週間経った。宇都木の屋敷は平穏を取り戻し、元通りの生活を皆送っていた。元通り、といっても、少しだけ変わったところもある。行人と千代が、少しだけ優しくなった。……少しだけだ。やはり、今後の宇都木家の当主として支えていく椛を、甘やかすつもりはないらしい。でも、二人の気持ちも少しだけ、椛はわかってきた。彼らは椛が大人になったときのために、厳しくしている。椛のことを、ちゃんと想っていてくれているということ。
「いきなり乗っかってくるのはやめて、紅……」
「え~? だってあんまりにも椛様が愛らしいから……」
「――紅!」
椛を起こしに来た紅は、相変わらず朝から騒がしい。ちょっとうるさいぞ、と椛が紅を自分の上からおろそうと彼女ともだもだとしていると、ぱし、と襖が開く。
「おまえ自分が割った皿、自分で補充しておけって言っただろ。足りねえんだけど。おまえの分、大きさ合わない皿な」
「で、でた……小姑」
現れたのは、群青。いらいらとした表情で、紅に刺のある言葉を吐く。
群青の怪我もすっかり治ったらしい。妖怪は怪我が治るのが早いというのは、本当のようだ。
「……おう」
「あ、群青……」
こうして朝に、椛の部屋に群青が入ってくるのも久しぶりだ。椛が気恥ずかしそうに群青を見つめれば、彼はふっと笑う。
「おはよう、椛」
「……おはよう」
ぎゅ、と胸が苦しくなった。群青の笑顔がなんだかきらきらと見えて、見つめられない。椛がおろおろと目をそらしていると、群青がため息をついて、言う。
「さっさと着替えろよ。飯が冷める」
「う、」
「……相変わらずのねぼすけだな」
群青は、そうして去って行ってしまった。きゅー、と心臓が痛くなる。口元を抑えて俯いてしまった椛を、紅はにやにやとしながらのぞきこんでいた。
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