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***  今日から学校までの送り迎えも、群青がやってくれる。前まで窮屈だと思っていた馬車、なんだか更に狭く感じた。ただ、その感覚は以前の「狭い」とは違う。苦手な人と乗り合わせることの気まずさから、甘酸っぱい気恥ずかしさへ。 「……」  前まで、何を話していたっけ。ぐるぐると考えて、椛は結局なにも喋れない。窓の外を眺めている群青を、みつめることしかできない。相変わらず洋装が似合うなあ、なんて思いながら。 「……あ、椛」 「えっ、な、なに」 「みろよ」  突然話しかけられて、椛はびくりと肩を震わせる。くい、と親指で指し示された外をみて――椛は、息を呑む。 「木、紅く染まっている」  窓の外は、立派な紅葉が広がっていた。 「……綺麗」  今まで、馬車から外を眺めたことがあったっけ。こんなにも綺麗だったのか……今まで勿体無いことをしたな。ぼんやりと、その瞳に紅葉を映す椛を、群青は優しげに見つめていた。  気付けば学校についてしまっていて、安らかな時間はあっという間に過ぎていた。群青は先に馬車から降りると、続いて降りようとする椛を待っている。 「あっ」  そこで、椛はうっかり足をつまずかせた。ぐらりと倒れこんだ椛に、群青は慌ててかけよって抱きとめる。 「……っ」  力強く自分を支える、腕。かあっと体温が上がったような気がして、椛は急いで群青から飛びのいた。 「ご、ごめん……!」 「ああ、大丈夫か」 「う、うん……ありがとう、いってきます!」  顔が赤くなっていないだろうか。椛は群青に背を向け、必死に走った。  キスをしようとしたとき、大人になってからな、なんて言って冷静に制された。今、あんなに密着したのに群青は顔色一つ変えずに、僕を安心させるように笑ってくれた。なんで自分ばっかりこんなに必死なんだろう。やっぱり、まだ自分が子供だから?なんだか悔しくて、きりきりと胸が、痛む。

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