255 / 353

35

*** 「なんで手をだしてあげないの?」 「あ?」  休憩をしていた群青に、突然紅が問う。群青はなんのことだかわからなくて顔をしかめた。 「椛様。群青、椛様のこと好きじゃない」 「……いや、これは子供を可愛いって思う「好き」なような気がする」 「えー! なにそれ!」 「たしかにちゃんと椛とは向きあえている気がするんだよ、でも俺の好きはそういう好きじゃなくて」 「群青、不能になっちゃったの?」 「なってねえよ! まだ若いっつうの! こう……頭を撫でたいとは思ってもキスしたいとかは思わないっていうか」 「そんなに椛様、子供かなあ」  うーん、と唸りながら紅が群青の隣に座る。じろじろと群青の顔を覗きこんでは、考え事をするように口をとがらせる。 「……柊様とそんに歳かわらなくない?」 「いや全然違うだろ」 「だって23と17でしょー? 同じよ!」 「6歳も違う!」 「6歳差なんてあってもない同然じゃない?」 「成人の壁はでかい」 「えー!」  つまらなそうな顔をしながら、紅はブーイングをした。つんつんと群青の脚をつつきながら、じとっとした声で文句を言い始める。 「椛様かわいそう。椛様が群青のことどう思っているかくらいわかってるでしょ」 「だから……もうちょっと大人になってから」 「ひどい! 何年待たせるつもり!」 「うるせえよ! 体格差をみろ! 犯罪臭がするだろうが!」 「しないよ~、私よりは椛様のほうが背が高いもん」  意見をゆずる気のない群青に、紅はため息をつく。よいしょ、とたちあがると、ぺしりと群青の頭をはたいた。 「あのね、17歳はあなたが思っている以上に大人だからね!」 「はい?」  男ってやだやだ、と言いながら紅はそのままどこかへ行ってしまった。唖然とその後ろ姿をみながら、群青は頭をかく。椛のことは彼が赤ん坊のころから見てきている。自分が椛に手を出しているところを想像して、なんだか罪悪感がこみあげてきてしまったものだから、「やっぱりまだ早いよなあ」なんて呟いたのだった。

ともだちにシェアしよう!