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「……ん?」
いつものように、深夜の見回りを群青がしているとき。窓から差し込む月明かりに照らされて、誰かが前から歩いてくるのを発見した。月明かりが差し込んでいるといっても、明るくはなく、顔は全く見えない。壁伝いにおそるおそる、といったふうに歩くその影をみて、群青はその正体に気付く。
「……椛。電気つけて歩けばいいだろ?」
「こ、壊れてて……」
「まじか。言っておかないとな……」
その正体は、椛。向かってきた方向から、用を足しにいっていたんだな、と群青は察する。
「部屋まで送っていくか? 暗くて危ないし」
「あ、あの……」
「ん?」
「群青の見回りについてまわっちゃだめ?」
「いや、なんでだよ。寝ろ」
「明日学校ないから大丈夫……」
「どうしたんだよ、急に」
「お、おばけが!」
「……はあ?」
がっ、と勢い良く手を掴んできた椛を、群青は苦笑いしながら見つめる。毎日妖怪と一緒にいて今更おばけ?にびびるなよ……と言いたいところだが、怖いものは怖いのだろう。一人で寝るのが怖いのだと察して、群青はぽんぽんと椛の頭を撫でて、言う。
「いねーよ、おばけなんて。いたとして、何怖がってんだ」
「怖いよ! トイレいったらなんか笑い声が!」
「……じゃあ、俺の部屋で寝るか? そろそろ見回り、紅と交代だから、一緒に」
「……えっ!?」
「え?」
「群青と一緒に!?」
「……やだ?」
「い、いやじゃない、けど、……けど」
かあ、と顔を赤らめた椛をみて、群青はしまった、と思う。「好き」が食い違っているのに、これは少し酷いかも、と思ったのだ。しかし、椛がこくこくと頷いたものだから、いまさらひけない。
「……ん、じゃあ。いこうぜ」
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