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*** 「ん……」  朝日が昇る。ちか、とまぶたの裏が明るむ感覚に、椛は目を覚ました。 「あ……」  いつもと、布団の感触が違うことに気付いて。そして、隣に人が寝ていることに気付いて。思い出す。昨晩は、群青と一緒に寝たのだということを。  ちらりと隣で寝ている群青を見遣れば、彼はまだ寝ていた。きらきらした金髪が乱れて枕に広がっていて、着物がはだけて胸元が見えている。寝顔は穏やかで、整った顔立ちがわかりやすい。 「……」  きゅうっと胸が締め付けられる。この人を、自分のものにしたい。そう思う。昨日の、一瞬だけかいま見えた彼のなかの「獣」に、もうがっちりと胸を掴まれてしまった。ああいう表情をすると、この人は増々かっこよくなるんだと思った。抱いてほしい、自分に夢中になってほしい。群青のことが好きで溢れてしまう。 「……ん、椛……」 「あ、群青」  じっと見つめていると、群青が目を覚ましてしまったものだからどきりとしてしまった。群青は薄い蒼色の瞳に椛を映すと、しばらくぼーっとしていたが、やがてふ、と柔らかく微笑む。 「……おはよ」 「お、おは……おはよう……」  ぎゅん、と胸を射抜かれてしまった。その笑顔の「おはよう」にときめきすぎて、椛はあわあわと慌て出す。顔を真っ赤にして、椛が動けないでいると、群青がすっと椛に手を伸ばしてきた。なんだろう、と思っているとそのまま引き倒されて、のしかかられて……キスをされる。 「んっ……、ん!?」 「おはよー、椛……」 「ちょ、……ん、……ぁ」  寝ぼけている、と気付いたときにはもう遅い。さながらじゃれてくる犬のごとく、群青はちゅ、ちゅ、としつこくキスを繰り返してくる。椛は、もうくらくらしてきて、抵抗できなくて、されるがままだった。 (心臓がもたない、助けて……) 「ぐんじょう……だめ……」 「……ん、」  なんとか絞り出した名前に反応するように、群青は動きを止める。そして彼は、ハッと目を見開いて、身体をガバっと起こした。 「……あ、わ、悪ィ……」 「……う、ううん……」  群青はしまった、という顔をしながら椛を見下ろした。視線をふらふらとさせて、頭をかいて、そして乱れた着物を直している。群青はしばらく参った、というふうに黙っていたが、やがてくしゃ、と椛を撫でて言った。 「……起きようぜ。休日だからって惰眠むさぼんのはよくねえよ」 「……うん。群青……真面目だよね」 「まあな」  群青は「飯つくってくる」と言って、先に部屋を出ていこうとした。気だるそうによたよたと歩いていたが、扉の前で立ち止まり、一言、言う。 「……いつでも、俺の部屋……来ていいから」 「えっ……」  ぱたん、と閉じられた扉。しばらく椛は固まっていたが、……バタン、とベッドに倒れ込むようにして悶絶を始める。  やばい、やばいやばい。 (はやく……群青とひとつになりたい)  どうしたら彼は、自分に必死になってくれるのかな。そんなことを考えて、椛はごろごろとベッドの上を転げまわっていた。

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